TEL:03-6869-4425

東京都港区虎ノ門1-1-21 新虎ノ門実業会館5F

専門コラム「指揮官の決断」

第452回 

安全保障に関する議論を避ける理由 その2

カテゴリ:危機管理

承 前

前回、当コラムでは安全保障問題を避けている理由として、専門外であることだけでなく、メディアやそこに登場するコメンテータたちがあまりにも拙劣で、したがって、それらを普段読んだり、観たりしておられる多くの方々に、常識的な話が通じないので、話をするのが嫌だということを挙げています。

しかし、この点について、海上自衛隊の先輩からお叱りを頂きました。

曰く、だからこそ、皆に分かるように説明すべきだということです。

たしかに、当コラムがその役を担わないと、単に年寄りが愚痴をこぼすエッセイになってしまいます。

そこで、今回は、気を取り直して、普段安全保障問題に関心を持たない多くの方々にメディアに騙されないように論点を選んで解説しておきたいと思っています。

基本的な前提として、国家には「自衛権」があるということに異論を唱える論者はいないと仮定しておきます。

ただ、自衛権はあるものの、そのための軍備を持つことをわが国は憲法で禁止していると解釈する考え方があることは否めません。

憲法をまともに読むと、そう規定していないことは明らかなのですが、なぜかそのように信じている識者が多いのが不思議です。特に憲法学者に多いのが理解に苦しむところです。

この憲法論について述べていると、一大論文になってしまいますので、いずれ論究することはあるかもしれませんが、今回は憲法論には踏み込みません。

自衛権の概念

実は、この「自衛権」の解釈をメディアと政治家の多くが間違っているので、わが国の防衛がまともに育っていけないという問題があります。

自衛権の行使の要件として、それが正当でなければならないということがあります。つまり、自衛のための行為でなければならず、威嚇や先制攻撃であってはならないという立場です。

そこで、正当防衛であること、専守防衛であることなどの要件が加味されてきます。

そのこと自体は誤りではありませんが、問題はその意味が正しく理解されていないことです。

その議論が正しく理解されていないことは、敵地攻撃のできる長射程武器や先制攻撃の議論を聞いているよく分かります。

つまり、一般に、相手の領域を攻撃することや、先に手を出すことは自衛権の正当な行使の範囲から逸脱するとみなされるということです。

要するに、相手が先に武器を使い、あるいは兵力を用いてわが国の領土を侵略してきた場合には、その武器を無力化することや侵攻兵力を攻撃することは許されるが、それ以前には行動できないという縛りです。

実は、現場の自衛官もそのように考えている者が大勢います。だから、最初は自分たちが犠牲にならなければならないと覚悟しているのです。

簡単に言うと、やられたらやり返していいが、先に殴りかかってはいけないという論理です。

実は、これは誤った解釈です。

正当防衛とは、急迫した不正な侵害(不当な攻撃)に対し、自己または他人の権利を守るために、やむを得ず行った行為で、違法性がなく処罰されないという刑法上の概念です。

そして、厳格な要件があります。 

  1. 相手の行為が違法であること
  2. 侵害が現在進行中であるか、まさに迫っている状況であること
  3. 自分の身を守る(または他者を守る)という目的で行ったこと
  4. 防衛上の行為がその状況で必要最小限度であり、相応のものであること

という条件があります。

この要件をよくお読みになると分かりますが、殴られて殴り返すのは正当防衛ではありません。単なる報復です。

正当防衛であるためには、相手が殴りかかってくるときに、それを止める必要があります。

形式的には、先に手を出すことになります。

これは西部劇を見ているとよく分かります。

決闘のシーンで、向かい合った相手に対し、両者とも拳銃をいつでも抜けるように身構えます。

そして、相手が拳銃を抜こうと動いた瞬間に自分の拳銃を抜いて相手を打ち倒そうとします。

つまり、相手が拳銃を抜くことが確実になってからですが、相手を撃つ動作に入るのです。相手にまず撃たせてから撃つのではありません。形式的には先に拳銃を撃っています。

それが正当防衛射撃です。相手に撃たれてからでは、自己または他人の権利や生命を守れないからです。

従来の野党やメディアの主張どおりであれば、ある国が日本に一回だけ核の飽和攻撃をしてきて、次の攻撃を準備していなければ、最初の飽和攻撃で大被害を出して終わりになってしまいます。

核ミサイルでの攻撃が行われる際には、そのミサイルが飛行中に破壊する必要があるのですが、最近の弾道弾は、従来の弾道弾のように軌道が計算できず、また極超音速で撃ち込まれてくる核弾頭もあるため、迎撃が困難になりつつあります。

その場合は、相手国内で発射の準備が行われ、それが発射される前に破壊する必要があり、敵地攻撃や先制攻撃が必要となります。

相手が撃つ前に、その発射基地で破壊する必要があるということです。

不勉強な政治家やメディアの問題点を指摘するだけでも大変

政治家やメディアの議論を聴いていると、彼らの論理が矛盾を犯しているのに気づいていないことが分かります。

なぜクマの駆除が認められるのか、などと考えると彼らの理屈では説明できません。

クマは市街地に現れ、木に登って柿を食べたりしているだけで駆除の対象となります。

ヒトに襲い掛かろうとしているのではなく、山に食べるものが無くて子供を連れて食べ物のありそうな市街地に出て来て、柿の木を見つけて登ったら駆除の対象とされるのは、何を根拠としているのかという議論になります。

武器の使用と武力の行使の概念の違いさえ理解できない政治家やメディアには、彼らの論理が矛盾していることを気付かせることすら困難でしょう。

かつて、弊社が配信しているメールマガジンで、日本語すらまともに理解できない偉そうな評論家佐高信に言及しましたが、このように、まともな日本語が通じない連中相手の議論は疲れるだけなんです。

(メールマガジン「指揮官の休日」 No.430 稀にも見ない〇✕  https://q.bmv.jp/bm/p/bn/list.php?i=aegismm&no=all&m=485)

だから、この議論をしたくないんです。