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専門コラム「指揮官の決断」

第479回 

 専門コラムとしての在り方

カテゴリ:危機管理

承 前

前回、専門コラムで米中首脳会談を取り上げ、これまで扱ってこなかった時事問題を扱う意図をお伝えしました。

当コラムはこれまで何度も申し上げてきたとおり、危機管理の専門コラムです。

筆者は、元海上自衛隊の幹部自衛官であり、在隊中に幹部学校指揮幕僚課程及び高級課程で、マハンやゴルシコフの海軍戦略を学び、戦時国際法についても教育を受けています。

しかも、筆者のクラスが受けた戦時国際法の講義は、当時の日本最高峰の講義でした。国連海洋法の準備段階で、外務省から依頼を受けて、何度もスイスに渡り、日本側委員として議論に参加し、沿岸12マイルを測る基準を直線基線にした当人の講義でした。彼は元々飛行艇のパイロットだったので、基準が直線基線でないと、領海の線引きが凸凹になることを知っていました。船乗りはあまり頓着しないのですが、飛行機乗りにとっては、敵が領空にいるのか、領空外にいるのかはかなり大きな問題であることを海上自衛隊の飛行機乗りとして知っていたのです。彼は退官後、どこかの大学の教員となったはずです。

筆者も、海上自衛隊が護衛艦に乗せてくれないのなら、一層のこと研究者に戻ろうかと考え、この教官に弟子入りを申し出ました。教官は快く了解してくれたのですが、補任当局が認めず、その結果、2年間で17日しか休みのない勤務や、海幕監査官、自衛艦隊司令部の幕僚などを務めさせられることになりました。

しかし、そういう教育を受けて、それなりの部隊の司令部勤務をしてきたにも関わらず、軍事や安全保障の専門家と自称したことはありません。

一方、危機管理については、教育を受けたことがありません。

しかし、その専門家と自称しています。

なぜでしょうか。

専門性とは

筆者は、大学・大学院で組織論、意思決定論の基礎を学び、自衛隊に入隊しました。

職業柄、危機管理について考えざるを得ませんでした。

任官当初、最初の艦隊勤務時は、仕事を覚えるのに必死で、論文や専門書を読む余裕はありませんでしたが、その後、学校に入校を命ぜられたり、米軍基地での実習を命ぜられたり することが多く、いろいろと勉強したり、考えることができました。

最初の米国勤務で、湾岸戦争が勃発し、勤務していた部隊が戦争の準備を始めたのも大きな刺激でした。

帰国した筆者を待ち構えていたのは、内局への出向でした。

ここで、制服自衛官では知りえない、役人の世界と、政治家がどのように絡んでくるのかを見ることができたのも、大いに参考になりました。

その後、幹部学校指揮幕僚課程に入り、海軍戦略や戦時国際法を学んだのですが、この学校のいいところは、自選作業という自習時間がたっぷりあることです。

筆者は、この時間を使って、大学や大学院で学んだことの振り返りを行いました。

そこで、筆者が専門とした組織論、意思決定論をもとにして危機管論を眺めることができることに気付き、その眼で見ると、世の中の危機管理論が出鱈目であることに気付きました。

その幹部学校指揮幕僚課程修了近くにおきたのが、阪神淡路大震災です。

その後のメディアの危機管理を巡る議論が酷く、この国の危機管理に関する認識自体

を誤らせてきたことは、すでに当コラムで何度も指摘してきました。

そして、自分の職業を考えた際、単なる組織論や意思決定論ではなく、それらに立脚した危機管理を研究すべきと考えました。

つまり、世の中にまともな危機管理の議論がなかったので、学ぶことができず、自ら切り開かなければならなかったのです。

その後のこの国の危機管理論はメディアの誤った誘導で、散々たる状況になりました。

危機管理とリスクマネジメントの違いが分からないのです。

つい最近まで、チャットGPT[も出鱈目な回答を返してきました。AIは主としてネット上の情報を拾ってデータとするので、ネット上の情報が誤りだとAIも間違うのです。

当時、中小企業庁も危機管理とリスクマネジメントの違いすら出鱈目で、彼らの作る中小企業向け危機管理マニュアルもいい加減なものでした。

最近見直してみると、その部分は書き直されていました。

さすがに、コロナ禍を経験して、これはリスクマネジメントの問題ではないなと気付いたのでしょう。

世の中も危機管理とリスクマネジメントは違う、と主張するネットも現れています。

筆者は大学の講師として、危機管理論の入門的講義を担当した際、最初の2時間を危機管理とリスクマネジメントの違いに費やしました。この必要があるのは、多分日本だけです。

ということで、危機管理論の話をせよ、と言われれば、それなりに話をすることはできるかと思っています。

一見専門家に見えるけれど・・・

一方の、安全保障や軍事の話をせよと言われれば、ある分野については話ができますが、何でもこい、ということにはなりません。

筆者は飛行機の操縦資格は持っていますが、戦闘機の操縦はできませんし、回転翼機も同様です。

ヨット乗りとして外洋の経験はありますし、護衛艦の航海指揮官として、速さを競う溺者救助訓練で、負けたことはありません。

しかし、プロの船員に比べると経験不足です。1万トンの船を名古屋港に入港させよ、と言われると途方にくれます。正解は、事前に水先案内人を頼んでおいて、それを指定された地点で拾えばいいのですが、そういう発想すらないんです。

つまり、オペレータとしての船乗りや飛行機乗りとしては中途半端なのです。

では、安全保障論や軍事について、大学で講義できるかと言われれば、そういう自信もありません。

講義を組み立てることはできますが、質問をされると危ういのです。特に歴史について不勉強が目立ちます。

学生に質問されたくらいでうろたえるのは専門家とは言いません。

そのような理由で、これまで安全保障や軍事は専門外として語ってきませんでした。

放置できない理由があるんです

しかし、最近のテレビや新聞におけるこの分野の記事や解説があまりにも出鱈目で、そんなことで世論が形成されると、大変なことになるという危機感が強くなりました。

危機管理とは何か、という問題で筆者が世間の誤解と戦うのに酷い目に会ったように、このままメディアの出鱈目さに引きずりまわされたら、この国の存立が危うくなるという危機感さえ感じています。

たとえば、米国のイラン攻撃は、国際法違反だという意見が圧倒的ですが、理由を聞くと、先制攻撃だからだそうです。その程度の議論が堂々と大衆の面前で行われています。

この事態を放置すると、それこそ危機管理上の事態になりかねません。

そこで、専門ではないのを重々承知で、明らかな間違いという議論について言及していかざるを得ないと思っています。

困るのは、その明らかな間違いというのがやたら多くて、何を取り上げればいいのか分からにことです。

名門大学の教員が、その専門であるはずの内容について、出鱈目な説を述べているなどということはよくありますし、筆者自身もそのような間違いを犯してしまう怖れだってあります。

今後、当コラムで扱っていく分野について、筆者の専門分野については、極端な過ちはしないだろうと考えますが、専門外の分野については、皆様十分ご注意ください。

何が専門で、何が専門外かというのも難しい問題です。

例えば、医学については当然専門外ですが、医療統計の話なら、場合によっては医療専門家の過ちを指摘できたりします。

コロナ禍における致死率や東京大学の研究者チームが発表した論文については、テレビに出てくる専門家の間違いや、記事を紹介したメディアの読み間違いを指摘しました。それは統計学の入門的レベルの話だったからです。

したがって、今後、専門外の事象に言及する際、何を根拠としてそのように主張するのかを明らかにしていきますので、当コラムが何を言いたいのか、その都度判断して、その見解を支持するか反対するかを判断して頂ければと思っています。

広い範囲をカバーしようと思っているわけではありません。

最近、マクロ経済や安全保障の分野における政治家やメディアのあまりにも杜撰な議論が目立ちますので、それらの中から、これを放置すると危機管理上の問題になりかねない、と考える論点について言及していこうと考えています。

ということで、これからの当専門コラムには、今まで触れて来なかった話題が時々登場しますよ、というお話でした。