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専門コラム「指揮官の決断」

第220回 

第3波襲来?? 責任転嫁だろうが!

カテゴリ:危機管理

感染症の専門家でなくとも分かる事実

当コラムは感染症を専門としていないことについてはこれまでもいやになるほどお伝えしてきています。

そこで当コラムでは当初、コロナ禍そのものには専門外という立場から論究することを控え、この事態に対して政府がどのように対応し、国民がどう反応し、それをマスコミがどのように報道するかに関心を持っていたのですが、4月の時点でマスコミ報道があまりにもでたらめで多くの方がミスリードされている現実に直面し、これを放置すべきではないとの思いから、当オフィスが多少なりとも心得のある統計やORの観点からコメントを続けてきました。

具体的にはむやみにその検査をやってはならないということを簡単な計算で示したコラムを4月初旬に掲載し、以後も数字やグラフから解釈できる事実とメディアの主張の関係に論究してきました。(専門コラム「指揮官の決断」第184回 論理性の問題:PCR検査を無駄に行ってはならない理由 https://aegis-cms.co.jp/1947 )

この度も、日本医師会の会長がGoToトラベルと感染者数の関係について、エビデンスはないが経過や感染者が増えたタイミングを考えると、間違いなく十分に関与していると述べたので呆れていました。7月末に始まったGoToトラベルでは。10月末までの3000万人の利用者数と陽性判定者数は明らかな逆相関を描いており、このグラフをどう見ると間違いなく関与しているといえるのか不思議で仕方ありませんでした。

福岡の高島市長は「Go Toトラベルが関係しているのであれば、全国各地で同じ傾向があってもおかしくないと思うのですが、 11月19日時点の分析においては、Go Toトラベルと福岡市の感染者数に相関関係はみられませんでした。」と発表しており、その分析に用いたデータのグラフ化したものを市のポータルサイトに掲示しています。

このグラフを見ると、素人ならむしろ逆相関と見てとっても仕方ないような姿になっています。さすがにそこまで言わなかったのは、いくらかでも統計学を理解する職員が市役所にいるのでしょう。

原典を読まずにコメントする専門家たち

ところが、12月8日、共同通信の配信により各メディアが一斉に東大の研究チームがGoToトラベル利用者の発症者が非利用者の2倍になることを明らかにしたと報道し、GoToトラベルと感染の関係が証明されたと騒ぎました。

以下は東京新聞のサイトです。

「政府の観光支援事業「Go To トラベル」の利用者の方が、利用しなかった人よりも多く新型コロナウイルス感染を疑わせる症状を経験したとの調査結果を東大などの研究チームが7日、公表した。PCR検査による確定診断とは異なるが、嗅覚・味覚の異常などを訴えた人の割合は統計学上、2倍もの差があり、利用者ほど感染リスクが高いと結論付けた。」

この日の夕方のニュースや翌日のワイドショーなどはこの話で大はしゃぎでした。

私は統計学的に証明されたと聞いたので興味を持ち、しかしながらテレビの言うことを鵜呑みにするつもりはまったくありませんでしたので、東大のこの研究チームの論文を読んでみました。

感染症の医学論文なら理解できないだろうけど、統計学なら何とかなるかもしれないと思ったからです。

ネット上で手に入れることができたのは査読前の論文で、12月4日付でプレプリントサーバーであるmedRxivで公開されていました。このサーバーを初めて知ったのですが、エール大学が運営しているサーバーで健康科学に関する査読前の論文を公開するサーバーのようです。

タイトルは“Association between Participation in Government Subsidy Program for Domestic Travel and Symptoms Indicative of COVID-19 Infection”というものであり、タイトルが示しているように、関連性の研究であって因果関係を研究したものではありません。

その主張はGoToトラベルを利用した人のほうが新型コロナ症状の人に多かったということなのですが、相関関係と因果関係は別物ですし、統計学上2倍になるということと、利用者と非利用者の比が2対1であるということも別問題です。統計学的に2倍であることを証明しようとすればこの論文の程度の検定では不十分であることは筆者達も気が付いているはずです。だから、causal relationではなくassociationというタイトルなのでしょう。

つまり、この論文を読んでも統計学的に2倍になったとはどこにも書いていないにも関わらず、テレビは統計学的に証明されたとはしゃいだのです。査読前のこの論文は英文ですが、それほど難しいことが書かれているわけではないので、科学部の記者が読めば分かるはずです。しかし共同通信の記者は理解できないようです。

政府の新型コロナウイルス対策分科会の尾身会長は、「この研究では時系列が検討されていない。こうした調査では新型コロナ症状を持つ人がその原因としてGoToトラベルの利用を思い出しやすく偏ってしまう可能性がある。感染拡大に影響したかどうかを客観的に判断するのは難しい。」と論評されています。

尾身会長はGoToトラベルは地域によって運用を停止すべきという立場ですが、その尾身会長ですら東京大学の研究チームの結論を援用することをしていないのです。尾身会長はこの論文をしっかりと読んで論評されているようです。

この論文はタイトルを”association”にとどめているので査読を通る可能性はありますが、もしその程度の検定で統計学的に2倍だという結論を出していたとすれば査読を通るとは思えませんし、修士論文ですら学位審査は通らないでしょう。

しかし、その程度の論文すら読めない、あるいは原典を読まないのがテレビ局です。

先週はこの論文を引用して統計学的にも証明されたとコメントする専門家がテレビで多かったのですが、この論文そのものを読まず共同通信の記事しか読んでいないことは明らかです。あるいは統計学の初歩を理解していないかのどちらかです。

感染症や公衆衛生学の専門家が統計学を理解していないとしたらびっくりです。九九を知らずに数学を語るようなもので、足し算と引き算しかできないということです。

日本医師会会長の責任転嫁

そもそも冬になったらコロナ感染者が増えると騒いでいたのがメディアと医師会だったのではないでしょうか。彼らの言う通り気温が下がってきたから陽性判定者が増えているのであって、なぜGoToトラベルキャンペーンが原因とすり替えるのでしょうか。

予見しがたい事態に襲われているわけではありません。冬場になれば感染者が増えることは十分に予見していたはずです。

ウイルスは温度が低い方を好み、また、乾燥した状態では水分が蒸発するために軽くなって大気中を長く浮遊することが可能となり、一方、人間は寒いと発熱に体力を使うために抵抗力が下がってしまうため、冬の方が感染力が強くなるというのは実証的にも説明されています。にもかかわらず日本医師会の会長がGoToキャンペーンと結びつける理由は明らかでしょう。

GoToトラベルが始まった7月下旬以降、陽性判定者は減り続け、コロナは一時小康状態が続きました。

この間、医師会の関心は要請に応じて準備した専門病棟の経営でした。この病棟に一般の患者を受け入れることができず、経費のみがかかって経営が苦しかったのです。

このため、冬になればコロナ患者が増えると主張しつつも、その事態を迎え撃つ準備をしてこなかったのでしょう。そのため、1億2千万人が住むこの日本で重症者が500人になっただけで大騒ぎをしているのです。

つまり医師会が適切に対応しなかった責任をキャンペーンにすり替えているにすぎません。

しかし、実際にGoToトラベルキャンペーンで陽性判定者が増えたというエビデンスは全くなく、単純に数字を見ていると7月下旬のキャンペーン開始から陽性判定者が減ってきたという事実しか浮かび上がりません。多分、この逆相関関係は認められるものの因果関係は認められないでしょう。しかし、相関関係も逆相関関係も認められないものに因果関係を認めることはできないので、日本医師会長の発言は全く意味を持ちません。

現在までに4000万人が利用したキャンペーンで報告されている感染者は150人です。27万人に一人の確率です。これは集計の仕方に問題があるとの批判もありますが、誤差が10倍あるとしても3万人に一人の割合ということで、これは観光事業関係者がどれだけ大変な努力をして迎え入れているのかを表すものであり、日本医師会会長の発言はこれらの多くの関係者の生き残りをかけた必死の努力に何の評価もせず、根拠なしに否定するという極めて無礼で思慮のかけらもないものです。

まともに数字を理解できないテレビ

一方のテレビ局は騒ぎを大きくして不安を煽り、経済を痛めつけておいて、その責任として政治を批判することによって視聴率を稼ごうと必死のようです。そもそもGoToトラベルで多くの人々が出かけてしまうよりも自粛で家に籠っているほうがテレビの視聴率は上がるのかもしれません。

驚くのはテレビを代表とするメディアの数字を読む能力の低さです。

緊急事態宣言において安倍首相が「接触を70%、できれば80%減らしてほしい。」と訴えたのに対して、翌日からメディアが繁華街や大きな駅における人出の数で70%とか80%と騒いでいた馬鹿さ加減にはうんざりして論評を掲載しました。人出と接触数は違うということをメディアは誰も知らないのですからびっくりです。

これは小学生でも分かる理屈です。人が二人しかいない社会を考えると、一人が外出を自粛すれば人出の数は50%減ですが接触は100%減となるのは自明です。

この計算は分子の衝突理論と呼ばれ、理工学部の1年生はたいてい勉強しているはずで、式そのものはそれほど難しくなく、理屈を教えてやれば中学生でも解けるはずです。

これほど数字を理解しないメディアは、果たして自分たちの挙げている視聴率だってしっかり理解できているのか疑問です。

行政は何をうろたえているのか

しかし、メディアのいい加減さだけではなく行政の出鱈目も極まれりです。

もともと当コラムでも申し上げてきたとおり、危機管理は済々と行えるような代物ではありません。しどろもどろになりながら、満身創痍の中で必死になって試行錯誤を繰り返すのが危機管理です。あらかじめ準備もできず、想定もしていなかったようなとんでもない事態への対応ですからそれは仕方がないことなのです。

したがって横浜港でクルーズ船に対応していたころにバタバタしたのは無理もなく、だれがやってもそうなるでしょう。

しかしながら、8月以降小康状態が続き、しかし冬になればコロナは破壊的な猛威を振るうとあらゆる専門家が予測し、テレビでも大騒ぎしていたはずなのに、各自治体のうろたえ方はいったい何なのでしょうか。

11月18日、北海道の鈴木知事は重症者が18名になったところで不要不急の外出を自粛する要請を出しました。同じく24日、大阪府の吉村知事は重症者98人で飲食店の時短要請を行っています。翌25日、東京の小池知事は重症者41人で時短要請です。それぞれ医療を守らなければならないという理由でした。

しかし、札幌は190万人の年です。10万人に一人の重症者です。大阪は880万の人口の大都市であり、東京にいたっては1390万の都市です。880万人の都市で100人の重症者が出ると狼狽え、1400万人の都市で40人ちょっとの重症者が出ると自粛要請なのです。

国全体で考えてもこの頃の重症者数は300人未満であり、連日の新規陽性確認者は2000人から2500人の間でした。この間、フランスでは一日の新規感染者が5000人を下回ればロックダウンを解除する方針であり、対日本の人口比を考えると1万人で解除という方針です。

英国は5月の下旬に連日の新規感染者が1万2千人を下回ったとしてロックダウンを解除しました。人口比を考えると2万1千人くらいになるかと思います。

日本が緊急事態宣言を出した4月7日の新規陽性判定者は377人でした。

私たちは何をうろたえていたのでしょうか。

そして今、新規陽性判定者が2000人となったところで、各自治体は自粛要請を出し、国はGoToトラベル事業を年末年始の観光地の一番のかき入れ時に停止するという有様です。

12月7日には一日の死亡者数が47人となりました。これでもう大騒ぎです。

繰り返しますが、末期癌であろうと心筋梗塞であろうと、その死亡者からコロナウイルスが検出されればここにカウントされます。

昨年の1月には平均で連日51名のインフルエンザ死亡者が出ていました。

しかし私たちは自粛など全くせず、「平成最後のお正月」といって騒いでいたはずです。そもそも毎年インフルエンザで少なくとも3000人の方が亡くなっているのにコロナ死者はまだ2700人です。繰り返しますが、死亡してウイルスが検出された人の数が2700人ということで、健常者がコロナになって亡くなった人数ではありません。

結核も同様に毎年3000人くらいの方が亡くなります。そして結核菌の検査をすれば何千万人という人たちが陽性になることは間違いありません。これは法定伝染病なので、コロナ禍の論法で考えれば、わが国の人口の8割とかの人々が結核病棟に収容されなければならない理屈です。これは医療どころか国が崩壊します。

そもそもが大騒ぎしなければならない事態ではないのに行政も医師会もメディアの戦略に見事載せられて諸外国と比べて二けた違う数字でおびえ切っているのです。

600人の重症者でこの国の医療は崩壊するのか?

1億2千万人の国で600人の重症者で医療崩壊の危機を叫ばなければならないという事態に際し、医師会長はGoToトラベルを停止せよとか自粛が必要とか「我慢の三連休」など他人事のように言っていますが、この事態を迎え撃つ準備を怠った自らの責任に言及することなく、「よく言うよ。」と思いますね。

米国では連日20万人の新規陽性判定者が出ています。英国でも毎日2万人の陽性判定者が出ています。日本は2500人程度です。

何度も申し上げますが、医師会会長の地位は学者としての業績や医師としての腕が評価されるのではなく、単に政治的手腕だけで就く地位なのでしょう。初歩的なグラフすら読めなくても日本医師会の会長にはなれるようですから。

お上から「自助」などと言われたくはないね

また、政権にも「自助、共助、公助」などとは言って頂きたくありません。自助は国民の責任ですが、政府から「自助でがんばれ」などと言われる筋のものではありません。政府は黙って「公助」だけでもしっかりとやればいいのです。それが政治の仕事です。

政権のみならず、この事態になんら有効な提案のできない野党は猛省すべきです。

11月20日に立憲民主党が打ち出した「立憲民主党コロナ緊急対策」という1枚だけのペーパーを見て呆れかえってものが言えませんでした。中学生だってこの程度は考えるだろうという程度のウィッシュ・リストで具体性がまったくありません。この程度が最大野党の国ですから政治に期待するほうが無理なのです。

菅総理が言われたのは「政治家はレベルが低すぎて皆さんの期待には応えられないから、国民の皆さんは自助でがんばってね。」ということだったのかもしれません。