専門コラム「指揮官の決断」
第245回危機管理の最強のツール:図上演習
弊社の図上演習が紹介されています
メールマガジン等ではすでにお伝えしておりますが、弊社の図上演習コンサルティングの模様がテレビの取材を受けました。(日経CNBC『時代のNEW WAVE』https://j-newwave.com/archives/hayashi_yu )
また、図上演習というものがどういうものなのかを簡単に解説した記事が株式会社クロスメディア・パブリッシング様のサイト『マネジメントクラブ』に掲載されています。(https://media.management-club.jp/zujoenshu/ )
ということでお分かりいただけるように、現在、弊社では図上演習の普及に注力いたしております。
この図上演習については当コラムでもすでに何回かご紹介いたしておりますが、この度、また新たに別の角度からもご紹介したいと思い、三回に渡って図上演習を取り上げてまいります。
今回は図上演習とは何か、どうやって行うのかについてご紹介します。
図上演習とは何か
図上演習とは「対応すべき事態に対して、想定を付与することにより事態を疑似体験しながら、情報の収集・分析・意思決定・伝達等の対応を机上で行う演習」のことです。
つまり、実際に人員や機材を動かすことなく、様々な事態を想定し、その際にどのような対応をすべきなのかを経験していくためのものです。
ここでは「図上演習」と称していますが、同じ手法をもって「図上訓練」を行うこともできます。
現実に人員や機材を動かしませんので実施の調整を簡単に行うことができ、また、経費もほとんどかかりません。実際の動きをしないので、様々な機器の動かし方などの訓練には飛行機のシミュレーターのような特殊な装置などが必要となりますが、逆に、現実には起こりそうもない事態や実動の訓練では危険で行うことのできない事態についても想定することができます。例えば、駅や空港など一般の旅行客などが多数いる現場で、大規模災害などの演習を行うことは現業を阻害しますのでなかなか実施できませんが、図上演習ではそれらの想定の下に演習や訓練を行ことができます。
また、想定さえできるのであれば宇宙人の襲来などの対応も取り上げることができます。
歴史はきわめて古く、それが遊びとなったのが囲碁や将棋だと言われています。
日本では明治時代に、後に連合艦隊作戦参謀として日本海海戦の作戦を立案した秋山真之が米国への留学の帰国後、海軍大学校の教官に補職された際に、米海軍で行われていた図上演習を学生の教育用に導入したのが最初と言われています。
以後、海軍では頻繁に行われ、様々な作戦が立案されると、その計画をもとに図上演習が行われてきました。
海上自衛隊も旧海軍でこの図上演習を経験した幹部自衛官らによって導入され、図上演習装置という大規模なコンピュータを用いて海上自衛隊のメジャーな司令部がすべて参加する大規模なものから、部隊で指揮官以下数人で行う小規模なものまで各種の図上演習が日常茶飯事に行われています。
筆者はこの作戦図演と呼ばれる図上演習にはプレイヤーとして参加するだけでしたが、ロジスティックスの分野における後方図演という図上演習については、それを企画立案し統裁するという経験を豊富に持っています。
作戦図演は特殊な図上演習なのでそのままビジネスの世界への応用はできませんが、後方図演というのは作戦部隊への補給をどのように円滑に行うかをテーマとして行われるので、在庫水準の維持や調達リードタイムの検討、輸送をどうするのかなどそのままビジネスの世界でも応用が可能な図上演習です。
その図上演習をあまりにも身近に行っていたので、退官後商社に再就職した際に図上演習という言葉すら知らない人が多かったのに驚いた覚えがあります。
図上演習の流れ
それでは、図上演習はどのように行うのかをご説明いたしましょう。
図上演習はコントローラーグループとプレイヤーグループという二つのグループにより行われます。
コントローラーグループは、テーマとなる事態における様々な状況を想定として出していきます。火災発生とか負傷者がいるなどの想定です。そしてリアルワールドでは何も起きていないので、図上演習参加者ができるだけ状況下に入りやすいように様々な状況を想定していきます。天気は雨であるとか、津波警報が発令されたなど実際の状況が生起したら考えなければならない様々な要素を想定として出していくのです。
一方のプレイヤーグループはいろいろな専門ごとにチームを作って、コントローラーから出される想定に対応していきます。たとえば大地震の発生に際し、会社の総務部は情報収集や帰宅困難者対策を行うでしょうし、営業部は出先に出ている営業部員の安否を気遣うでしょう。製造部は安全の確認や操業再開の見通しを考え始めるでしょうし、情報システム部は電源の瞬断によってシステムがダメージを受けていないかどうかの確認を始めるはずです。
こうして、コントローラーから想定が次々に出され、それにプレイヤーが対応していくということを繰り返していきます。そして、所望の段階に到達したとき、あるいは予定時間となった時に「状況中止」を宣言します。
その後、各部で自分たちはどの想定に対してどのような対応をしたのかを整理し、その時の判断が正しかったかどうかを検討します。
各部での検討が終わった後、全体での検討を行います。
ここでコントローラーは各想定における各プレイヤーの対応を整理し、それぞれの段階で考慮して欲しかった事項などを明らかにしていきます。
そして最後に講評を行います。
講評では、各プレイヤーの対応における問題点が指摘されたり、あるいは推奨すべき対応などについて紹介したりするほか、コントローラーの出した想定において考慮すべき事項などについて注意喚起を行います。また、図上演習全般を通じて発見された問題点などを指摘していきます。
実は図上演習において最も重要なのはこの講評の部分であり、この講評を実施しないのであれば図上演習を実施する意味が無いと思われるほど重要なものです。
この一連の流れにおいて、昔は紙と肉声で行われていましたが、最近は大型のモニターと各人の端末が使用されるようになりました。つまり、図上演習は必ずしも全員が一堂に会することなく、それぞれの持ち場からも参加することができるようになったということです。
さて、図上演習の一連の流れがご理解いただければ、それがどのように行われるのかのイメージも思い浮かべることができるようになって頂けたものと思います。
次回以降、この図上演習実施上の注意点や実施することによって得られるもの、図上演習の応用方法などについてご紹介してまいります。