専門コラム「指揮官の決断」
第328回危機管理論入門 イントロダクション
はじめに
年頭にお伝えしたとおり、今後当コラムは新たな編集方針のもとに掲載してまいります。
今回はそのイントロダクションです。
新たなに当コラムが目指すのは、危機管理とは何をするマネジメントであるのかを明らかにしていくということです。
特に我が国に顕著なのですが、危機管理という概念が理解されていないというよりも、誤解されているという問題があります。
各論における誤解ならいいのですが、危機管理というマネジメントそのものが誤解されているというのは問題です。正しく危機管理が行われないからです。
そこで、当コラムでは危機管理というマネジメントがそもそも何をするマネジメントなのかという根本的な議論から起こしていきます。
そのうえで、危機管理において重視すべきものは何か、どのような考え方、ものの見方が重要であるのかなどについて繰り返し繰り返し言及してまいります。
議論の基礎に置くのは組織論であり、特にその中でも意思決定論に軸足が置かれるかと考えます。
危機管理は様々な側面を持ちますので、どのような面からでも語ることはできるかと思いますが、筆者がある程度の専門性を持って語ることができるのが組織論からのアプローチであり、そこに軸足を置いて周辺分野における研究成果や知見を借りて議論を展開してまいります。
マネジメント論
先ほどから「危機管理というマネジメント」という言い方をしていることにお気づきの方もおられるかと拝察いたしますが、ここにも筆者の思いが現れています。
筆者はあくまでも「危機管理」をマネジメント論として捉えようとしています。つまり、机上の学問ではなく、実学として議論していこうということです。
先のコラムでも申し上げておりますが、危機管理はまだ学問的体系を持っているとは言えず、「論」の域を出ておりません。したがってアプローチが様々であるだけでなく、目的も対象範囲も論者の数だけあると言っても過言ではありません。
このことは、まだ概念規定が混乱していると言ってしまえばそれまでのことなのですが、逆に見ると、様々な知見や方法論を動員することができるということでもあります。
したがって、今後は様々な分野の研究成果や現実の事象から得られた知見などが紹介されていくはずです。
それらの様々な知見や研究成果を吟味しながら、危機管理というマネジメントに生かしていくにはどうすべきかについても語ってまいります。
最終的に当コラムが目指すのは、危機管理論の基礎的な教科書なのかもしれません。
入門的議論の目次体系は?
危機管理入門に関するコラムについては、現在のところ明快な目次体系があるわけではありません。漠然としたものはあるのですが、この目次体系を作っている際に気が付いたことは、あらかじめ完全な目次体系を作ることが不可能だということです。書き進んで行くうちに内容がどんどん膨らんでいくだろうからです。
筆者も著書を持っていますが、その執筆の際には書くべき内容と範囲が決まり、目次を作って議論の順番を決め、それに従って執筆していきました。
著書の執筆の場合は、要求される枚数と期限がありますから、あらかじめ目次体系を作り、締め切りに間に合うように書き進めていくことができますし、それが重要になってきます。しかし、コラムへの掲載ではそのような制限がないので、次第に膨れ上がっていくことは容易に予想されます。
そこで今後のコラム執筆に際しては一つの工夫をしています。
当コラムを見て頂ければ分かりますが、コラム表題の下に「カテゴリー」という欄があります。そのカテゴリーでは「意思決定」や「リーダシップ」などとそのコラムに関連する概念ごとに分類のキーワードが与えられています。したがって、意思決定に関するコラムをお読みになりたい場合にはそのキーワードで「意思決定」となっているところをクリックして頂ければ、関連するコラムが出てきます。
そのカテゴリーに「危機管理論入門」という言葉が追加されておりますので、それをクリックして頂ければ入門編のコラムばかりが読めるように編纂してまいります。
大きな項番の下に執筆をしてまいりますが、途中で追加すべきものがあれば関連する箇所に追加していきます。したがって、ある程度回数が進んだところでカテゴリーボタンで関連記事をまとめて頂ければ一定レベルの教科書が編纂されつつあることがご理解頂けるかと存じます。
編纂の基本方針
議論は基本的には当コラムの基本的な方針に従って展開していきます。つまり科学的方法と論理性の重視という根本姿勢を堅持してまいります。議論のレベルは大学の一般教養程度とし、特に専門的な知識は必要せずに読むことができるように配慮していきます。
随所で必要な知識については紹介していき、それらを集大成すると入門的教科書になるようにしていきます。
ここまででお気づきのことと思いますが、どうしても理論的になっていく傾向を否定できないかもしれません。そこで、その危機管理論から世の中を見るとどう解釈できるかという議論も並行して進ませる予定です。これは教科書的内容ではないので、危機管理入門の目次体系のような項番はふられることはありません。
軸足をビジネスに置く
危機管理論をマネジメントの実学として捉える以上、現実に適用できるものとなるように語っていきたいと考えています。
よく弊社に「軍隊流マネジメント」とか「自衛隊式訓練法」などの指導を依頼してこられる経営者の方がいらっしゃいますが、弊社ではそのようなご依頼は原則としてお受けしていません。
筆者は海上自衛隊で30年間勤務し、多くを学んできました。筆者は大学で組織論の基礎的な教育を受け、大学院でその研究をしていたこともありますが、現実のマネジメント論として組織論なり意思決定論を教えてくれたのは海上自衛隊でした。
海上自衛隊からは多くを学びましたし、独自の危機管理の体系を編み出すことができたのも海上自衛隊での経験によるところが圧倒的に多いことも事実です。
しかし、弊社では「軍隊式」とか「自衛隊流」というマネジメントや教育訓練方法を採用しておりません。
軍隊における合理的意思決定の手法は磨き抜かれたものがあり、筆者もその洗礼を受けておりますし、幹部候補生学校以来、様々な場面で徹底的に鍛えられてきたという思いもあります。
しかし、軍隊における合理性はそのままビジネスに適用できないことも知っています。筆者は退官後、商社の営業部長や米国企業のCEOを経験しており、自衛隊だけの経験でビジネスを語ることがいかに危険なことであるかを熟知しています。
また、自衛隊だけではなく軍隊は一般にそれなりに厳しい訓練を行い、厳格な規律を維持していますが、それも軍隊ならではの理由があり、それを理解している軍人たちによって実行されているから意味があるのであり、そのままビジネスの社会に適用できるものでもありません。
「軍隊式マネジメント」や「自衛隊流訓練法」などという話は、物珍しさからセミナーの話題としては評判をとることは事実なのですが、しかし、ビジネスの社会にそのまま定着するものではありません。
筆者が海上自衛隊に入隊した時の海上幕僚長と幹部候補生学校長はともに海軍兵学校出身者でした。彼らは海軍の伝統を海上自衛隊に残すのは自分たちが最後であるという使命感に燃え、筆者のクラスに対して行われた教育は猛烈なものでした。
しかし、そのような教育を企業の幹部候補社員に対して行ったら大変なことになります。
海上自衛隊が旧海軍から引き継いだ伝統や、その意味するところを理解している教官・指導官たちの想いがあって初めて成り立つ教育訓練であり、それを抜きにして形だけ似せてみても何の意味も持たないのです。
したがって、弊社では代表取締役が自衛隊出身者でありながら、軍隊式や自衛隊流のコンサルティングをすることはなく、軸足をビジネスにおいたコンサルティングをメインに行っております。
今後展開していく危機管理の入門的なコラムも、軍事組織の事例は豊富に用いますが、あくまでもビジネスの世界で役に立つマネジメント論を意識した議論を展開していくつもりでおります。
乞うご期待!
いよいよ次回から、本題に入ってまいります。
できるだけ多くの皆様に、危機管理の概念を正しく理解して頂き、しなやかで強靭な社会を作り上げていって頂きたいとの願いから執筆してまいりますので、どうかその趣旨をご理解頂き、危機管理の概念についての理解に努めて頂きたいと思っています。
また、積極的なご意見を賜りたいと存じます。疑問点などはいつでも、メールでもFacebookページのコメント欄でも結構ですので、お問い合わせいただければ結構かと存じます。
それでは次回からの展開をお楽しみにして頂きたいと思います。