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専門コラム「指揮官の決断」

第419回 

 情報の選び方

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はじめに

当コラムの更新をお伝えしているメールマガジンでは、テレビ朝日の報道を例にとり、そのレベルの低さが話にならないことを指摘しています。

このテレビ朝日の報道番組では、カリフォルニア州のマリブから見る太平洋から昇る朝日として、写真を掲げたのですが、この地で太平洋から朝日が昇るのが見えるかどうか、ちょっとでも考えることのできる頭があれば分かりそうなものです。

この問題をメールマガジンで取り上げたのは、専門性にこだわる当コラムで扱うには内容が下らな過ぎて、とてもまともに議論する気になれなかったからです。

当コラムでは、主としてコロナ禍において、報道が不安を煽るための報道であって、ファクトチェックも何もなされていない誤報や意図的に歪曲された報道が多いことを指摘してきましたが、それらは理論的な問題であり、高度な専門的知識を必要とするものではありませんでしたが、ちょっと考えながら読んで頂く必要のある記事でした。

そこで、最近、誰が考えても一目瞭然の誤報を例にとって、いかにテレビ報道がデタラメであるかを示させて頂きました。

ただ、この報道がデタラメであることは、私たちの日常の様々な意思決定に影響を与えますので、危機管理の面からも再度触れておく必要があるかと考え、ここに報道の伝える情報とはいかなるものなのかについての議論を起こします。

共同通信誤報問題

今年7月、佐渡金山が世界文化遺産に登録されたことから開催されたこの金山で働いたすべての労働者を追悼する式典に、外務省の生稲政務官が参列することから、韓国は政府関係者や労働者遺族の参列を取りやめました。

韓国は、生稲政務官が参議院選挙で当選した2022年の8月15日に靖国神社を参拝したと報道されたことを受けて、そのような政治家が政府代表として参列する式典に参加はしないという立場を打ち出したものです。

この韓国の認識は、2022年8月15日の夜に、共同通信社が配信した、生稲晃子議員が靖国神社に参拝したという報道を翌朝の朝刊や朝のニュースで取り上げたことによっています。

ところが、これは誤報であり、超党派の「みんなで靖国神社に参拝する国会議員の会」が新型コロナウイルス感染状況を踏まえ、代表者が参拝する予定だったものの、代表者自身が感染したため取りやめたという経緯があり、生稲議員は参拝していませんでした。

条件が整っていれば参拝していたところでしょうが、しかし、参拝したということ自体は誤報でした。

佐渡金山での追悼式に韓国が参加せず、その理由が生稲政務官にあるということで、このことが注目され、誤報だったことが分かったため、共同通信社は訂正を行い、謝罪の声明を出しています。

何故誤報になったのかというと、8月15日における閣僚や国会議員の靖国神社への参拝の取材について、複数の入り口をカバーするために別の報道機関の数社と分担してあたり、「生稲議員が入った」という他社の記者からの情報を鵜呑みにしたことが原因です。

この報道姿勢が筆者には信じられません。

裏を取っていないのです。裏を取ったかどうかを上司も確認せずに配信しています。

筆者がその記者の直属の上司であれば、裏を取ったかどうかを確認するだけでなく、本人に取材に行かせます。靖国神社への参拝をどのような思いで行ったのかを確認するためです。

他国の政治家の宗教的心情を理由に儀式への参列を拒む韓国という国もいかがなものかとは思いますが、いずれにせよ共同通信社の誤報が国際関係に影響を持ってしまったことは事実です。

共同通信の誤報は生稲政務官だけではない

共同通信の報道姿勢が問われるのは、この問題だけではありません。

コロナ禍においても、とんでもない誤報を行っています。その件は、当コラムでも指摘しています。

東京大学の研究者チームが、GoToトラベル事業への参加者数とPCR検査陽性判定者数との間の関連について研究した論文を発表しました。

この研究について共同通信が配信したのですが、GoToトラベル事業への参加者数とPCR検査陽性判定者数との間の関係が統計学的に明らかにされたと報道したのです。

この論文が、エール大学の健康科学に関する査読前の論文がアップされているサイトにあることを見つけた弊社でもダウンロードして読んでみました。

驚くべきことに、統計学的な証明はどこにもされていません。

研究者たちも自分たちが統計学的な証明をしていないことを自覚しているので、単に「関連性」と述べているにすぎません。統計学的な証明をするためには、相関関係と因果関係の確からしさが必要なのです。

この論文を医学を専門としない弊社でも読むことができたのは、「統計学的に証明された。」という記事があり、統計学なら分かるだろうというつもりで読んだからです。

多分、この取材を行った共同通信の記者は、統計学の初歩を理解せず、英語もほとんど読めないのだと推察されます。

しかし、共同通信の上司などは、原文を当たることをせずに配信してしまいました。

その配信を受けた各新聞社やテレビ局は、そのままコピー&ペーストをして報道したため、その誤報が瞬く間に広がりました。

それでも専門家たちが冷静なら良かったのですが、テレビに出演している感染症の専門家たちは、当コラムや弊社配信のメールマガジンで何度か指摘しているように、コロナ感染症の致死率すらまともに計算できない連中ですから、その記事を鵜呑みにしました。

さらに、当時の日本医師会の中川会長は、GoToトラベルと感染者数の因果関係は明らかだとして政府に同事業の中止を要求しました。自分たちはホテルで医療系の議員の政治資金パーティーを開いていたにもかかわらずです。

その結果、GoToトラベル事業は中止となり、多額の費用をかけて準備した宿泊施設を落胆させました。

ところが、GoToイート事業は中止しませんでした。そこで旅行に行けなかった分を地元で飲みに出たため、感染者が増えることになりました。

単純に考えても、一緒に泊まるような関係の人たちは、普段もマスクなしの付き合い方をしているでしょうし、そのような人たち同士で、完全に対策が取られた宿泊施設に行って帰るのと、居酒屋で大勢が飲んで大声を出すので、どちらが感染のリスクが高いかは分かるはずですが、テレビに出演している感染症専門家にはそれが分からなかったようです。

共同通信というのは、その程度の報道が珍しくない通信社です。

その通信社の配信を、何のチェックもせずにそのままコピー&ペーストするのが新聞やテレビです。

共同通信社の記事には、筆者も酷い目にあったことがあります。

海上自衛隊スパイ乗艦疑惑

1996年夏、海上自衛隊は、ロシアとの国交正常化を企図する政府の指示を受けて、海上自衛隊の艦艇をロシアに派遣することにしました。

選ばれたのは、佐世保を母港とする第2護衛隊群旗艦の「くらま」でした。派遣の名目は、ロシア海軍300周年記念の観艦式に参加せよということでした。

筆者はその第2護衛隊群司令部の幕僚として勤務しており、旧海軍以来70年ぶりとなるウラジオストクへの派遣航海の準備で大変な思いをして出航にこぎつけました。

ところが、その出港の翌朝、各紙が、「ロシアに向かった海上自衛隊の艦艇にはスパイが7人乗っている。」と報じたのです。共同通信が配信した記事です。

ウラジオストクに入港し、歓迎行事などを一通り終えてホッとしていると、舷門から、「監理幕僚に会いたいというロシアの方がお二人お見えです。」と言ってきました。

何だろうと出ていくと、背の高い男女二人がいて、「KGBの職員ですが、すこしお尋ねしたいことがあるのですがよろしいですか?」ということでした。

二人ともロシア系には見えず、どちらかというと北欧によくいるタイプに見えました。

男性は30代後半に見えるびっくりするほどの二枚目、、女性は20代後半か30代前半と思われるこれも絶世の美女の組み合わせでした。

司令公室に通し、珈琲などを飲みながら話を聞くと、「日本の新聞がこの船にスパイが7人乗っていると報じているが、それは本当か、彼らは今どこで何をしているのか、友好親善を目的とする今回の観艦式への招待なのに、スパイを乗せてくるというのはどういうつもりか。」ということでした。

筆者たちが出港してからの新聞で、今のようにemailなどない時代のことですから、筆者はその新聞を読んでいませんでした。

そこで、その記事のコピーを読ませてもらいました。

そこで分かったのは、その7人というのは、筆者が海幕と調整して臨時勤務で来てもらっていたロシア語を理解する幹部自衛官たちのことでした。

海上自衛隊は米国への留学生を多数出しており、また連絡官などで米国駐在勤務を経験している隊員もたくさんいます。

そうでなくても、米国とは共同訓練などが日常的に行われていますから英語を理解する隊員はたくさんいます。

一方でロシアとなると、日常的に使うことがないため、ロシア語を理解するのは、一部の情報関係者だけかもしれません。

したがって、監理幕僚として、ウラジオストク入港中の様々な所要に備えるために海幕にロシア語の通訳の派遣を要請したところ、派遣されてきたのはほとんど情報要員でした。

情報部門も、滅多にない機会なので、最初から人員を選考しており、要求したらすぐに名簿が送られてきました。

筆者は、その事情をKGBの職員に説明しました。

海上自衛隊では英語を話す自衛官はたくさんいるが、ロシア語が分かる自衛官はほとんどおらず、いても情報関係になる。監理幕僚としてロシア語の通訳が多数必要となるので、派遣できるだけ派遣してくれと頼んだら、全部が情報要員だったのは仕方ない、という説明には、彼らも「それはそうだ。我々だって、日本が分かるのは情報員だからね。」という返事でした。

そこで、彼らは通訳だけなのか、情報活動はしないのか、という質問になりました。

筆者は、「バカ言え、70年ぶりにウラジオストクに来るんだぞ。海図さえ渡してもらえない港に入るのに、連中が情報活動をしないわけないだろう、入港後から、通訳はしてくれているが、それ以外の連中は見ていない。きっといろいろなところを調べているんだろう。俺が監督しているわけではないから、連中が何をしているのかは知らない。それが何か問題か?」と逆に聞いてみました。

男性はニコニコして、「軍隊としては当然だね。もし必要な情報があれば言ってくれ、教えられることは教えてあげる。」と言い、女性の方は、「あなたがフランクに答えてくれてうれしい、もし隠されたりしたら、私たちはもう少し面倒な質問をしなければいけないところでした。」と、こちらもニコニコしていました。

筆者が、「あんた達は軍人じゃないけど、我々は軍人として当然のことはやるし、軍人として非常識なことはしない。一つ言っておくけど、さっきあんたは友好親善と言ったけど、我々はあんたたちと友好親善関係を深めるために来たんじゃないよ。あんたの国と日本はまだそんな関係じゃないからね。

私が入隊したときは、ソビエト連邦は私たちの敵国であって、その海軍と戦って倒すことが我々の目的だった。ロシアになって、どんな国になるのかを我々は興味深く見ているところだ。」と言うと、女性の方が「じゃぁ、何のために来たの?」と聞いてきました。筆者が一言、「信頼醸成措置の第一歩さ」と答えると、男性が「日本政府の声明は、すべてそれで統一されていますね。」と理解してくれました。

共同通信が、どのような意図があって「スパイ」が乗っていると配信したのかは分かりません。多分、自衛隊のやることにはすべて反対で、できる限り邪魔したいのでしょう。

しかし、体制の異なる隣国の海軍同士が信頼関係を築くというのは、どこから見ても望ましいことだと考えるのですが、連中はそれも気に入らないのかもしれません。

実際にその時の訪問では、観艦式行事に参加しただけではなく、ロシア太平洋艦隊旗艦と洋上での信号訓練などを行いました。洋上でふいに出くわして思わぬ事態に発展しないように、日ロ海軍間の特約信号を作り、その信号のやり取りを実際に洋上でやってみるというような訓練でした。

そこで築かれた関係が、数年後、カムチャッカ半島沖でロシア海軍の潜水艇が浮上できなくなった際に、海上自衛隊がどこよりも早く救援部隊を出発させて、ロシアから感謝状を贈られるという出来事につながりました。

共同通信の記事は、そのような関係を危うくさせかねないものでした。

ウラジオストク入港中の報道対応は筆者の担当でしたが、その日以来、筆者の共同通信社記者に対する態度は明らかに他社へのそれとは異なりました。

二言目には「俺たちはスパイだからな。」と言って、まともに取り合わないのです。

入港時にロシア海軍の歓迎行事に群司令が参加している際に、「くらま」乗員による日本人墓地の清掃奉仕を計画して送り込んだのですが、そこにぜひ乗せてくれと言って同行取材して、現地で、荒れ果てた墓地を見て取材どころではないとして乗員と一緒に作業をしたフリーのカメラマンがいました。

彼が疲れ果てて夜に船に現れると、監理幕僚が司令部公室に誘って、検食用に残してある一人分の夕食などを食べさせているのに、筆者を怒らせた通信社の記者には珈琲も出さないのです。(検食用は、司令部公室でも一食分を残しておいたのです。)

さすがに、カレーライスは食べたそうな顔をしていましたが、筆者に余計な手間を取らせたお返しはさせてもらいました。

日本のメディアの行う報道の何割が通信社のもたらす記事によって作られているのかは承知しておりませんが、上述のような例を散見しています。

この連中の、ファクトチェックのない記事、悪意ある印象操作に基づく記事などにより、日本の多くのメディアの報道が歪められていると言っても過言ではないと思っています。

この連中の術策にはまらないように、メディアからの情報に対応する必要があります。

がんばれ 共同通信

今回の表題に使用した画像は、共同通信社のウェブサイトの一部です。「事実で世界を結ぶ。」というとんでもない理念が記載されています。

自社の理念にすら従わない報道を続ける通信社というのも唾棄すべき存在ですが、彼らが一日も早く、報道の本来の姿を見つめなおし、真摯な反省のもとに私たちの社会の繁栄と世界の平和に貢献するような報道をしてくれることを祈っています。

今回が、本年最後のコラムになりました。ここ数年、当コラムではメディアの出鱈目さを指摘してきましたが、来る年がそのような記事を掲載しなくてすむ年になり、へそ曲がりでテレビや新聞が大嫌いな筆者が、暇があればテレビを観たり、新聞を読んだりするような年になってくれればいいなと思っています。

今年一年お付き合いいただいた皆様に感謝申し上げるとともに、来年が今年のように元旦から大震災に見舞われるような年ではなく、平和で活気のある世界になるように願うとともに、皆様のご多幸をお祈り申し上げます。

よいお年をお迎えください。