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専門コラム「指揮官の決断」

第251回 

コロナ禍とリスクマネジメント

カテゴリ:危機管理

コロナ禍のはじまりは

昨年の1月にダイアモンドプリンセス号が横浜へ入港してきたことを端緒に日本でも新型コロナウイルスの騒ぎが始まりました。

その後、このウイルスの正体がなかなかよく分からず、4月には緊急事態宣言などが出され、主要都市はゴーストタウンのようになりました。

この頃、当コラムではメディアのPCR検査推進大合唱に違和感を覚えて、むやみにやっても意味がないことを簡単な計算式で示しました。(専門コラム「指揮官の決断」第184回 論理性の問題:PCR検査を無駄に行ってはならない理由 https://aegis-cms.co.jp/1947 )

このPCR検査の結果陽性と判定された人をテレビが「感染者」と呼ぶのにも猛烈な違和感を覚えていました。要するに、この問題に関するメディアの取り組み方に疑問を持ったのです。

もともと筆者はメディアの記者という人種を毛嫌いしていました。個人的にも嫌いだったのですが、仕事を通じても嫌な思いを何度もさせられてきたからです。しかし、報道関係者は解釈の違いはあってもそれなりの根拠を持って行うという矜持は持っているものと考えていました。

しかしながら、第1回目の緊急事態宣言において、筆者は特にテレビというメディアのレベルと姿勢に疑いを持つようになりました。それは当時の安倍首相が宣言の発令に際して行った記者会見で「接触を7割、できれば8割減らしてほしい。」と国民に呼びかけたのに対して、次の日からテレビ局では主要駅や繁華街における人出の数を報道し始めたからです。

まぁ、善意に解釈すれば、接触の数をカウントするのは大変なので人出の数と接触数には相関関係があるとの前提で人出の数を数えているのだと言えないこともないのですが、テレビの報道を観ていると、そうではないことに気付きます。「68%でまだ70%に達していません。」とか「73%と70%には達しましたが、まだ80%には足りません。」などとアナウンスがあったからです。

当コラムではこの時、人出の数と接触数は異なることを説明し、理工学部の1年生なら勉強しているであろう分子の衝突理論を用いれば簡単に計算できることを紹介しました。(専門コラム「指揮官の決断」第195回 何故私たちは正しい情報を得られないのか https://aegis-cms.co.jp/2081 )計算などしなくても、衝突率は密度の二乗に比例しますから、単位面積当たりの人数を半分にすれば接触率は四分の一になるという程度のことさえ覚えていれば68%とか73%などという細かい数字に意味が無いことくらい分かるはずです。もっと分かりやすく小学生にでも分かるように説明すれば、世の中に人が二人しかいなかったら、人出が50%減れば接触は100%なくなります。テレビ局にはそれ程度すら理解できる局員がいないらしく、不必要に細かいデータを計測して報道していました。

この時、この連中は科学的議論ができないのだと悟りました。

それだけではなく、彼らが視聴率稼ぎのために不安を煽っているということも徐々に明らかになりました。その究極の姿が、現在ネットを騒がせているTBSの「サンデーモーニング」におけるキャスターの発言です。彼女はPCR検査の結果などを表すグラフを説明する際に、「重症者はワクチン接種が進んでいるせいで少なくなっている。」と発言したのです。やはりテレビにとって、重症者や死亡者が少なくなっているというのは不都合な真実だったので、つい本音が出てしまったのでしょう。

そのメディアの煽りによって世論は揺れ動き、さらには世論を見て科学的な正しさよりもポリティカルコレクトネスを重視する政権により、度重なる緊急事態宣言が続き、日本の経済は翻弄され続けました。

コロナへの対応を依頼されても・・・

この事態を受けて、危機管理を専門とする弊社にも相談を持ち込まれる経営者の方が現れ始めました。かつて、弊社が独自開催のセミナーを行っていたころにお出でになった経営者の方ばかりでしたが、一応に思いもよらぬ事態に見舞われて切羽詰まってのご連絡でした。

もともと弊社のコンサルティングは弊社のセミナーを受講されているということが条件でしたので、受講されたもののコンサルティング契約は保留されていた経営者の方たちでした。

さすがに経営が厳しく、藁にもすがる思いでコンタクトされてきたのだと思います。

しかし、弊社でそれらの依頼を受けることはありませんでした。

危機管理というものはそういうものではないからです。

中小企業庁が経営者向けに出している様々なガイドブックなどによれば、日常からリスクマネジメントをしっかりと行っておき、危機が生じた際にはすみやかにクライシスマネジメントに移行すべきと言って、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの関係を整理しています。

そもそもこれが間違いなのです。中小企業庁は危機管理が何をするマネジメントであり、リスクマネジメントとは何なのかを理解していません。

実は普段からしっかりやっておくのがクライシスマネジメントであり、何かが起きた時に発動するのがリスクマネジメントなのです。

今回はその説明をすることといたします。

リスクマネジメントVS危機管理

リスクマネジメントとは、文字通り「リスク」を管理することです。

「リスク」とは「危険性」であり、様々な意思決定に際し、常に考慮しなければならないファクターです。なぜなら、すべてのリスクを回避するとすれば何もできないからです。ローリスク・ローリターン、ハイリスク・ハイリターンなどと言われるのはそのためです。

様々な意思決定を行う際、その決定に伴うリスクを評価します。その結果、そのリスクを取るか取らないかを判断します。そして、そのリスクを取ると決めた場合に、そのリスクが現実となった時のための対策を立てておきます。これがリスクマネジメントです。

そして、その典型がBCPです。

一方のクライシスマネジメントとはクライシスを管理することです。「クライシス」とは「危機」であり、本来は事態が管理できないから危機になるのであるから、この危機管理という言葉は自己撞着に陥っているとも言えないことはありません。

何故その管理できない事態を管理すると主張するかと言えば、危機管理は元来危機を避けることを主眼としているからです。

そもそも危機管理とは第2次世界大戦後の東西冷戦下、国際的な紛争が武力衝突に拡大し、それが核戦争にエスカレートすることを何とかして避けようと研究が始った分野です。核戦争に至る事態を避けるためのマネジメントだったのです。

つまり危機管理とは危機に陥る事態になることを極力避け、そして危機的状況になってしまった場合にはその事態に押し潰されてしまうのではなく、その事態に毅然と対応して踏みとどまり、冷静に事態を把握して反撃の機会を窺い、そして機会を得て反撃に出るだけでなく、その危機を環境の変化と捉え、事業を躍進させる機会として考えるのが危機管理です。

そのためには、危機に陥りにくい体質を作っておくことや、いかなる事態に陥っても毅然と対応するだけの覚悟などを日常から身につけておくことが必要です。

つまり、危機管理は危機に陥る前の段階で始めておかなければなりません。

リスクマネジメントはリスクが現実化した際の対策は事前に講じておかなければなりませんが、そのリスクが現実化した際には淡々とその対策を実行に移すだけです。その対策が本当に有効なものであるなら、計画に従って行動に移せば問題は解決するはずです。

つまり、日常からやっておくべきことは危機管理であり、何か起きた際に実行するのがリスクマネジメントなのです。中小企業庁はそこを勘違いしています。

何も起きていないのにBCPを発動させる企業などあるはずはありません。BCPは何かが起きてから発動するものです。

コロナ禍におけるリスクマネジメント

この度のコロナ禍で弊社にご相談のあった経営者の方々のご依頼をお断りしたのはそれが理由です。つまり、弊社のセミナーにおいて、リスクマネジメントとクライシスマネジメントの違いを説明し、クライシスマネジメントは常日頃から危機に陥りにくい体質を作り、事態が生じた際には毅然と対応できるだけの態勢と覚悟を作っておかなければならないのですよ、と申し上げておいたにもかかわらず、それを怠り、いよいよどうにもならなくなって電話をしてきても遅いということなのです。

それぞれの経営者の方にBCPはどうされたのかを伺いましたが、コンサルタントに高いお金を出して作ったBCPが何の役にも立たなかったとお怒りでした。

それはそうでしょう。リスクマネジメントはリスクを評価するのであって、どのようなことが起こるのかを想像できなければなりません。

一昨年のクリスマス頃に年明けにウイルスによる大騒ぎが始まるなどと予想していたコンサルタントはいなかったのでしょう。

リスクマネジメントは想定していなかったリスクに対しては全く無力です。リスクが事前に評価されていないのであれば、その対応策も準備されていないからです。

つまり、想定外の事態に陥ったとすればそれはリスクマネジメントの失敗なのです。

しかし、あらゆるリスクに備えるということは困難です。リスクの蓋然性も考慮しなければなりません。東日本大震災における福島原発の惨事は想定より高い津波に襲われたことが原因でした。

また、一昨年の台風において関空が防潮堤を超える高潮に襲われて機能を一時失ったことがありましたが、その高潮の高さも想定を超えていました。さらには、関空と本土を結ぶ橋に台風避泊をして錨を打っておきながら誰も見張りを行わず走錨していることに気付かずに衝突するなどという船乗りの常識を持たぬ船がいるなどという想定もなされていなかったはずです。

そのように、事前に想定されず評価されていなかったリスクにはリスクマネジメントは対応できないのです。

リスクマネジメントにおいては、そのリスクが評価されていたならば、リスクが現実となった時には対応策が準備されていますから、その計画に従って淡々と行動すれば問題は生じないか、あるいは損害を局限することができます。

経済的損失に対して保険が掛かっていればその分だけ補償がなされるのです。

しかし、リスクが事前に評価されていなければあきらめるしかありません。保険に入っていなければ一円も戻ってこないのと同じです。

この度のコロナ禍で弊社に対応を求めてきた経営者の方々にはそのような内容をセミナーでお伝えしてありました。危機管理は普段からしっかりと危機に陥りにくい体質を作っておかねばならず、それでも危機に陥った場合には、毅然と対応して事態を冷静に分析して対応し、逆にその危機の中に事業を発展させる機会を見出していけるような覚悟と態勢を作っておくことが重要ですと、セミナーの中でくどいほどお伝えしてあったはずなのです。

しかし、彼らは危機管理を行わず、BCPを作って対応しようとしました。そしてそのBCPにコロナ禍への対応という計画が記載されていなかったので対応できなかったのです。

つまり、彼らはあきらめるしかないのです。

もしコロナ禍という事態に応用のできるBCPが作成されていたならば、その企業はこのコロナ禍で大きな収益を上げることができたはずです。一人勝ちですからね。

想定外の事態に対応するのが危機管理

本来の危機管理とは想定できなかった危機に襲われ、通常であればすべての望みが失われるという事態において威力を発揮するマネジメントです。

しかし、それは何か特別な技法を使うというものではありません。

常日頃からの体質の作り方、毅然と対応する経営陣の覚悟や大混乱の中で冷静に事態を分析し対応していく能力などを養っておくことから始まるのです。

弊社のセミナーにおいてはその説明しか行いません。それを理解された経営者に対してコンサルティングを行い、万全の態勢を創って頂いています。

その説明を受けたにも関わらず、コンサルタントに高いお金を払ってBCPを作っただけの会社を救うための危機管理というご依頼は弊社では受けることはできないのです。