専門コラム「指揮官の決断」
第203回不都合な真実 その2
このグラフの意味が分かりますか?
タイトルに用いた画像をよくご覧ください。
これはある医師がツイッターに投稿した記事に添付された画像です。
このコメントには「真夏の北半球でコロナが急増している先進国は、トランプを支持する米国の一部と日本くらいです。」とあります。
「先進国では米国の一部と」というのはどういう意味なのかよく分かりませんが、要するにヨーロッパ各国では終息に向かっているこの夏に米国と日本だけは感染が急増しているということが示されています。
このツイートしたのは上昌広という医師で、国会の公聴会などでも公述人として質疑に応じているところが中継されたことがあります。経歴は申し分なく、東京大学の医学部を卒業し、同大学院で勉強もしていて、同大学の医科学研究所の教授としても勤務されていました。ご専門はメディカルネットワーク論、医療ガバナンス論ということで、現在は特定非営利活動法人医療ガバナンス研究所理事長を勤められています。医療ガバナンスというのは、まだまだ研究が進んでいない領域なので、その先駆者とも言えるかもしれません。
実はこの上昌広医師には3月から注目していました。
2月末にたまたまある方から「上昌広という人がこう言っているけど、これは正しいのか?」という質問が送ってこられて、上医師のツイートが添付されていました。それには「新型コロナウイルスのpcrの陽性的中率の議論。私は風邪患者の2割程度は新型コロナウイルスだと考えています。感度7割、特異度9割で陽性的中立(原文のまま)は8割です。何が問題なのかな?」とありました。
私は感染症は全く専門外ですが、陽性的中率が検査陽性のうち罹患している人の割合を示すと言われたら、この数字が変だと気付くのに3秒とかかりません。軽く筆算してみても65%程度のはずです。この計算には高度な数学は必要ありません。理屈さえ教えてやれば中学生なら楽に解くことができます。
ちなみに、65%が問題でないという医者がいたら一歩前に出ろ、と専門外でも言わせて頂きます。
知り合いの医師によれば、この初歩的な感染症の計算問題は、医師の国家試験における頻出問題だそうで、統計学を知らない医師でも、その計算方法だけは勉強しているものだそうです。算数の世界ですからね。お医者さんもその程度の計算は出来てもらわないと困ります。
その程度の間違いを平気でツイートするというのはどういうことだろうとこの人に関心をもったのです。
その翌日、さらにびっくりするツイートが出てきました。
このグラフで武漢と海南を除くと逆相関で、患者が多いところほど致死率が低いとしています。そして、どこまで軽い患者を診察しているかで致死率が決まることを意味しているとのコメントが付いているのですが、医者ではない私にはまったく理解できませんでした。
統計学を少し齧っただけの私の眼には相関関係も逆相関関係もまったく見出すことができません。上医師にはこのグラフから相関係数を見出すことができるようなのですが、医学部というのは不思議な学問を教えているものだと思います。
そこで出てきたのがタイトルに表示されているグラフです。
このグラフをよく見るととんでもないグラフであることが分かります。
横軸は時間軸となっていて、1か月ごとに目盛りが作られています。
縦軸は人口10万人当たりの新規感染者数の推移なのですが、左側は日本で右側が欧米となっていて、欧米は20人ごとの目盛り、日本側は2人ごとの目盛りです。
同じ横軸に対して、右と左で異なる軸を用いるグラフは珍しくありません。相関関係を確認するのに便利だからです。
例えば、片方に失業率を取り、反対側に自殺者数をとって2つのグラフを書くと見事に重なることが分かります。失業率と自殺者数に相関関係が認められることが分かります。そこで因果関係を調べることになります。
また、一方に水難事故死者数を一方にとり、アイスキャンディの売り上げを反対側にとって2つのグラフを書くと、これも奇妙に重なることが分かります。つまり相関関係は認められるのですが、因果関係を立証することが困難な問題としてよく例示されます。
ところで、この上医師のグラフですが、同じ指標に基づくグラフを単位を変えて重ねたグラフであり、そもそもが無茶苦茶なグラフで意味をなしていません。あえて申し上げれば、4月にはどこも酷かったけど、ヨーロッパはすでに収束に向かっているのに対して米国と日本だけが再び急激に増加しているということを示すことはできそうです。
しかし、これはかなり悪質な印象操作を意図したグラフであると言わざるを得ません。何故なら単位を揃えると、日本の感染者数など見えなくなってしまうほど少ないので、日本の現状が酷いことになっていると主張したい人にとっては不都合だからです。だから日本の感染者数だけ目盛り幅を10倍にして見せているのです。
この医者は立憲民主党の招請により国会の公聴会で議員の質問に答えています。立憲民主党はこの人をブレーンとしているようですが、この程度の医師をブレーンにしているから彼らの国会での質問がお粗末にならざるを得ないのでしょう。
この医師はPCR検査を全員に行うべきという主張のようで、早期発見早期治療が医療の原則であると述べています。まともな医師に訊くと、「それはそうだけど、それと新型コロナのPCR検査がどう関係があるんだ?」という反応が返ってきます。
当コラムで度々お伝えしていますが、PCR検査で分るのは陽性かどうかだけであり、感染しているかどうかは分かりません。感染といえるほどウイルスが入りこんで増殖を始めているのかどうかはPCR検査では分からないからです。
陽性と判定されたからと言って治療を開始することにもなりません。私たちは結核やインフルエンザなど様々のウイルスや細菌に対する免疫を持っていて、PCR検査をした場合にそれらが検出されることも珍しくはありません。それどころか、結核菌の検査をしたらほとんどの人が陽性でしょう。でも、何の症状もないのに結核の治療などしようという医者はいないのです。
つまり、上医師は臨床をほとんどやっていないのではないか、さらに、細菌性の肺炎とウイルス性の肺炎を見分けられないのではないかという疑いをもつ医師もいました。インターンレベルだなと笑う医師もいます。
さらに、そもそも早期治療をしようにもまだ新型コロナ用の治療薬が開発されていません。ということは通常の風邪やインフルエンザと同様対症療法しかないはずです。
単なる陽性者に対症療法などまともな医者は絶対にしないでしょう。症状がないのですから。
引き返せない報道
現在のコロナウイルスを巡る報道も同様です。
繰り返しますが、感染者の増加に歯止めがかからないとテレビ局は一斉に報道していますが、増えているのは検査の結果陽性と判定された人の数であり、陽性と感染は全く別です。
陽性者の中には感染者もいます。そして、その感染者の中に症状が出る人がいて、その中に重篤化して亡くなる方も出てきます。
感染しているかどうかはPCR検査では分かりません。PCR検査は培養した検体に新型コロナウイルスの遺伝子配列を持ったウイルスを見つけるだけなので、それが体内で増殖されていて、寄生が始まっているかどうかは分からないのです。死んだウイルス(適切な表現ではありませんが。)を見つけても陽性と判定してしまうのだそうです。
しかしテレビ局ではその陽性判定者数をもって感染者が増えていると報道し、過去最高を超えたと騒いでいます。
過去最高だったのは4月・5月ころですが、テレビはその頃に比べて重篤化する人の数が少ないこと、死亡者にいたっては激減していることにはまったく触れません。
これは局にとって不都合な真実だからです。
陽性判定者数を感染者と偽って報道するのも、陽性者が激増していて重篤化数や死亡数が減っていると、当コラムがかねてから感染症学的な立場からではなく単純に統計学的な見方から主張しているとおり、社会が免疫を獲得しつつあるということを裏付けてしまうので都合が悪いからです。
しかしテレビ局は一度振り上げてしまった拳を下ろすことができません。TBSはそれでも夕方の番組で、キャスターがとにかくPCR検査をやるべきと煽りすぎたことを反省しているとの発言をしていましたが、テレビ朝日はさらに過激になり、全国民に検査をすべきという論調になりつつあります。こうなるとやけになっているとしか思えません。
PCR検査は受けた時点でウイルスが喉や鼻に付着していたかどうかだけしか分りません。したがって、1週間前に陰性だったからといって感染していないことの証明にはなりません。
米国でサマーキャンプに参加した6歳から19歳の子供たち600人が10日間のキャンプの後に感染者が出たため参加者を検査したところ、300人近くが陽性と判定されたという事例がこの夏に起きました。彼らはPCR検査で陰性だったという証明書をもって参加していました。
つまり、PCR検査は現在ウイルスに感染しているかどうかのふるいにかけるためには役に立たないということです。
意味があるのは、症状が出て処置法を検討しなければならないときに、何に感染しているのかを見極めることができるということです。
そのためには必要な患者が発生した時に速やかに検査して結果を出せる態勢を維持しておくことが必要です。つまり、むやみやたらと検査をして検査資源を浪費することは意味がないだけでなく、重篤化あるいは死亡する患者を減らすためにはやってはならないことであり、テレビ局の言うとおりにするならば医療が崩壊しかねないのです。それをさらに全国民に拡張すべきであると主張するのは、日本の医療崩壊を企図するテロ行為です。
この程度の簡単な理屈をテレビ局は理解できないのか、あるいはさらに社会を不安に陥れて視聴率を稼ごうとする魂胆があるとしか思えません。
特にテレビ朝日の記者である玉川徹氏がその急先鋒で、7月29日の朝の番組で1週間後の東京は重篤者が94人になるという発言をしていました。どういう根拠でそう発言されたのかを見逃してしまったのですが、その日の東京の重篤者は19名でした。ところがその1週間後、重篤者は15名に減っていました。この間、東京で4人の方が亡くなっています。つまり、19人中4人が亡くなり、新規に重篤化した患者はいなかったということです。8月16日現在でも東京の重篤者は25人です。
つまり、テレビ局の報道は何の根拠もなく、ただ恐怖心を煽って視聴率を稼ごうとしているにすぎません。
そして、彼らにとって不都合な事実は報道しようとしません。実効再生産数が8月16日現在で0.82、東京ですら0.83に低下していることなど一切無視です。8月3日頃は1.5近い値であったことを考えると急激な低下だと言えますが、このことについてのコメントはありません。1.0を下回ったため黙っていても収束に向かいますが、これが0.5を下回ると急速に収束に向かうことになります。
さらには、そのように恐怖を煽り、自粛ムードを醸成し、その結果痛めつけられた街や観光地を取材してさらに番組の視聴率を上げようという陰謀としか思えません。
社会はテレビによって往復ビンタを浴びせられているのです。
東京大学という大学は
東京大学先端技術研究所の児玉龍彦名誉教授が国会で、この勢いでいけば東京は来週は大変なことになる、来月には目を覆うような状態になると意見を述べてから1か月経ちました。この間、東京の死者はゼロの日も多く、死亡者が出ても二名が最大です。
重篤者数も新規の最大が7人で、累計でも25人で横ばいです。
児玉教授は確かに「この勢いでいくと」という前提をつけられています。私たちは普通はその勢いを統計的手法により算出します。移動平均を取ったり、伸び率のバラツキを見たりするのですが、児玉教授の計算は根拠が示されていません。薄学の私が推測するに「昨日一人亡くなり、今日二人亡くなった、この勢いでいけば・・・」という計算かもしれません。その計算だと大変なことになるのは私も同感です。
この計算をすると最初に一人亡くなった日から28日後に日本人が死滅し、34日目に地球から人類がいなくなります。
冒頭にあげた上医師もそうですが、東京大学という大学は入るのは大変難しいのかもしれませんが、在学中におかしくなるんでしょうか。あるいは何とかと何とかは紙一重なのでしょうか。
認識を誤っていました。お詫びして訂正させて頂きます。
ちょっと前まで当コラムでは、テレビには新型ウイルス用ワクチンよりも先に開発すべき薬が必要だと考えていましたが(専門コラム「指揮官の決断」第198回 新型コロナウイルスワクチンより先に開発すべき薬 https://aegis-cms.co.jp/2097 )、ここにいたってその認識が誤りであったことを率直に認め、関係者にお詫び申し上げるとともに、ここに訂正させて頂きます。
彼らに必要なのは1000本の針です。
そして、その新開発の薬は東京大学出身の医師及び教授に献上すべきものと考えます。
私たちの周りには情報が溢れていますが、気を付けないと、様々な情報の都合のいい所だけを切り取って不都合な部分を覆い隠している情報に惑わされることがあります。そういう手段を使うのは政権やメディア、あるいはそこに登場する識者たちの常とう手段です。
そういう意味ではこのコラムも例外ではないかもしれません。筆者が意識せずにそのようなことをやっているおそれだってあります。
私たちは情報を無批判に受け入れることが危険だということを強く認識するべきです。
特に危機管理上の事態における報道やその他の情報は玉石混交どころか、悪質な操作が行われていることがあり、真偽を見分ける力量が必要です。
それほど難しいことではありません。無批判に受け入れるのではなく、ちょっと立ち止まって考えればすぐわかるようなことばかりですから。
テレビ局と東京大学出身のお二人の医学者にとって現状は不都合です。彼らは内心ではその発言どおりに東京がミラノやニューヨークのようになることを切望しているのではないかと思ってしまいます。