専門コラム「指揮官の決断」
第258回第5波の真実
お盆の影響だぁ?
当コラムが東京はすでにピークアウトしていると断定したのは2週間以上前のことです。先週あたりは様々な専門家がこれはお盆で一時的に人流が少なくなった影響だとコメントしていました。
これは彼らの最近の主張と矛盾しています。彼らは感染源の最大のものは家庭内感染であると言っていたはずです。お盆で人流が減り、オリンピック観戦で皆さんが家庭内にいたとすれば、陽性判定者はもっと増えていてもおかしくないはずです。
パラリンピックも終わり、オリンピック終了から2週間以上たちましたが、この2つの大会による感染拡大は起きませんでした。この事実に関し、執拗に中止を求めた野党各党や著名人たちはあたかも自分はそんなことは言わなかったような態度です。
東京だけでなく全国レベルでもピークアウトが確認された現在、テレビでコメントを発する専門家たちは、感染者は減少しつつあるとはいえ予断を許さない、また医療のひっ迫状態はさらに悪化していると述べています。彼らは2週間前に東京がピークアウトしていることを理解できなかったため、引っ込みがつかないのでしょう。
当コラムのように感染症を専門としていなくともピークアウトは読み取れるのに、それを理解できなかった医師や学者は少なくとも感染症の専門家の看板を降ろすべきです。
当コラムが東京のピークアウトを判断したのは、前回のコラムでご紹介した考え方を基本としています。
具体的には陽性判定者数の推移です。これは前回のコラムでご紹介したとおり、陽性判定者数の推移を表すグラフを見ていたのではなく、その増加率の変化を見ていました。
全国と東京都の陽性判定者数の日々の増加率を小数点以下3桁まで計算し、その上昇が止まった日から3日間連続して減少を始めたことを確認し、東京都がピークアウトしたと判断しました。
しかし、相手は病気ですから、陽性判定者数がピークアウトすればいいというものでもありません。当コラムが注目していたのは、陽性判定者の増加に伴う重篤者と死亡者数の推移です。
第5波で何が起きたのか
最初に致死率を見てみます。
新型コロナ感染症における致死率の考え方については、当コラムでは以前、コロナの女王と呼ばれる某大学教授はじめほとんどの専門家たちが計算方法を理解していないと批判しています。(専門コラム「指揮官の決断」 第240回 王様はハダカだと言う勇気 https://aegis-cms.co.jp/2368 )
その批判を要約すると、テレビに出てくる専門家たちが主張している致死率はコロナ死と判定された人数を陽性判定者数で割って求めているがそれが誤りだというものです。コロナ死と判定された人数を分子とするなら、分母は全国の陽性者でなければなりません。ただ、全国民を相手に検査をしているわけではないので、それを推計する必要がありますが、いずれにせよ、たまたま検査を受けて陽性判定を受けた人だけを分母としていれば致死率は極めて大きくなるはずです。当コラムが批判した当時、コロナの女王は致死率を1.5%としていましたが、筆者はそんなに高いはずはないと考え、全国の陽性者を推計して計算し直すと0.15%程度でした。
さらに厳格に計算しようとすると、コロナ死と判定された人数の85%以上は死後にウイルスが検出されてコロナ死と認定された方々であり、コロナ専用病棟で重篤化して亡くなった方や病院に入る前に容態が急変して亡くなった方々は15%以下と推定されますから、致死率はさらに小さくなるはずです。
したがって、今回も全国の陽性者数の推計値を求めて致死率を計算すればいいのですが、その推計値を求めるためのデータがどこを探しも見当たりません。デルタ株の感染力が強すぎて拡大の速度が速く、データの集計が間に合っていないのが現状です。
しかしながら、今回は第5波以前の致死率と第5波における致死率を比較するだけですので、分母は陽性判定者数を採用して計算します。したがって、その致死率は正確な致死率ではありませんが、第5波以前と第5波の致死率の比較は十分に出来ています。
その計算によると、第5波以前における80歳以上の致死率は13.02%でしたが、第5波における致死率は9.25%となっています。以下、70歳代4.91%→2.73% 60歳代1.30%→0.55% 50歳代0.28%→0.01% 40歳代 0.09%→0.034% 30歳代 0.02%→0.01% 20歳代 0.004%→0.003% と致死率は第5波以前の1年半に比べて第5波の期間の方がどの世代でも小さくなっています。
それでは発症率は?
次に検討したのが、発症率です。これは分母は陽性判定者数でいいかと考えます。
各年代別に発症して何らかの治療を受けた人数の割合を計算してみました。
これによると4月初旬では80歳代以上が14.01%だったのが、今月月頭では9.08%になっていました。以下70歳代12.9%→8.9% 60歳代11.1%→7.8% 50歳代17.2%→6.9% 40歳代8.9%→6.4% 30歳代8.1%→6.0% 20歳代9.1%→5.6% 10歳代10.1%→5.4% 10歳未満 9.9%→6.2%と減少しています。つまり、治療を受けなければならなかった人数が各年代で減少しているということです。
これは逆に発症しなかった人数が増えているはずなので、そちらも計算してみました。陽性判定を受けながら無症状だったり治療が不要と診断されたりした人数ですが、80歳以上が4月上旬までは73%であったのが、9月上旬には77% 70歳代では80%→86% 60歳代88%→92% 50歳代81%→93% 40歳代90%→95% 30歳代91%→94% 20歳代92%→95% 10歳代89%→95% 1歳未満90%→94%と増加していました。
テレビでは30代40代の重篤者が増えていますと繰り返し放送され、50代で自宅療養となり保健所と連絡が取れなくなって亡くなった状態で発見された男性の話題が繰り返し流されます。ワイドショーでは基礎疾患歴のない男性と紹介されていますが、実はこの男性は糖尿病であり、ご自分もそのことを承知しており、「コロナが怖い」といつも言っていたと会社の上司が証言しています。テレビは何を取材しているか承知していませんが、検診か何かで糖尿病と診断されたものの病院に受診して治療を開始しておらず、既往症としての記録がないというような事情があるのかもしれません。
また、20代の感染者が急増していると連日報道されますが、これはウソです。大きくなっているのは全体に占める割合であり、全体が急速にしぼんでいるのですから、実数は減少しています。認知心理学では「エコーチェンバー効果」と呼ばれますが、この種の虚報が繰り返されると社会がそう思い込んでそのような空気が作られてしまうことが恐ろしいと考えます。連日、PCR検査陽性判定者を感染者と報道することにより、この社会にはコロナウイルスによる感染症の患者が160万人もいると皆が感じてしまっていることにより大混乱が起きているのですが、もし本当にそうなら、日本の医療はとっくに崩壊しているはずです。
コロナの統計の取り方にも大きな問題があります。この第5波の期間中に20代の死者が5人発生しましたが、たまたまそのうちの一人の死亡が発表された時に東京都のデータを観ていたことがありました。この20代の若者は事故で大けがをした結果亡くなり、その後ウイルスが検出されたため遺族が濃厚接触者となるという事態でした。
これを要するに
まとめると、第5波が襲い掛かってきた6月下旬から8月下旬にかけての2か月の間、結果的に致死率、発症率とも低下していたということなのですが、しかしこれは緊急事態宣言の影響ではありません。65歳以上の人数についてはワクチンの成果を排除できないのですが致死率及び発症率の低下は4月上旬から観測すると5月にはその兆候が見られており、6月7月と続いて減少して8月下旬に至っています。65歳以上のワクチン接種が本格化してきたのが6月からですので、ワクチン接種の成果を待つことなくこの兆候が現れてきているということが言えます。つまり、緊急事態宣言など発しなくても、致死率・発症率は減少傾向にあったというです。
ただ、率は減少しても、デルタ株の凄まじい感染力のために死者及び重篤者の実数は増加しました。しかし、それでもなお例年のインフルエンザの死者・重篤者の方が遥かに大きな数になっていることは間違いありません。
それではコロナ禍収束はいつなのか?
私たちが知りたいのは、このコロナ禍がいつ収束するのかということです。
これは当コラムの専門外でデータから読み解くことはできませんので、いろいろな専門家に意見を伺っています。
その方々の大体の見解をまとめると、11月初旬にはまた増加傾向が現れ、第6波という騒ぎになるだろうということです。そして、過去1年半この社会が経験してきたような状況が繰り返されることになるそうです。何故かというと「ゼロコロナ」というのは幻想に過ぎないからということで、歴史的にも人類が勝利したウイルスは天然痘はじめごく少数しかないということでした。
天然痘やエボラ出血熱、あるいは狂犬病のような感染症は、極めて致死率が高いため、逆に感染性は弱く、感染性が強いものは弱毒化されているのが普通なのだそうです。デルタ株の感染性の強さと致死率及び発症率の低下を見ているとなるほどと思わされます。
新型コロナウイルスを天然痘と同様に地球上から駆逐することはできず、人類は共存する道を探さねばなりません。そのためにはワクチンも重要ですが、治療薬の開発が急務です。
毎年冬になると日本を襲っている風邪は4種類のコロナウイルスですが、今後はそれが5種類になるということであり、治療薬が開発されれば、そう大騒ぎにならなくなります。
ただ、忘れてはならないのは風邪を治す薬はいまだに開発されておらず、市販の風邪薬や受診して処方される薬も対症療法でしかないということです。そして、「風邪は万病のもと」と言われるように、高齢者にとっては風邪は致命的になります。
上記のデータでもお分かりいただけたかと存じますが、陽性判定を受けても80歳代以上でも77%以上、20歳代にいたっては95%が発症していません。しかし、彼らも自宅療養者としてカウントされています。つまり、全国で病院に行けず自宅療養している感染者が13万人もいると報道されても、その9割は発症すらしていない人々であり、インフルエンザや結核の場合であれば陽性であることすら分からなかったはずの人々です。
当コラムで新型コロナウイルスよりも例年のインフルエンザの方が恐ろしいと述べると、「インフルエンザには治療薬があるが、新型コロナには現段階では治療薬がないのだからインフルエンザの方が恐ろしいというのは当たらない。」というご意見を頂きますが、それは昨年の今頃の話ならそうかもしれません。
現時点でもこれという特効薬が開発されているわけでもありません。しかし、現場の医師たちの死に物狂いの努力の結果、治療薬こそ開発されていませんが、治療法は確立しつつあるようです。致死率が低下している理由の一つには対症療法で最悪の事態になることを抑えつつ、患者の体力を回復させて免疫を高めるということに成功しつつあるということがあるはずです。
やる気のない医療従事者たちの実態
つまり、デルタ株への変異によって感染性は強くなったものの、発症率も致死率も低下しており、それなりの治療さえできればこのウイルスと戦うことはそう難しくないということなのかもしれません。問題はいつまでたっても改善しないコロナ対応の医療態勢にあります。
感染症への対応が可能な病床数は日本には73万床ありますが、新型コロナに対応している病床はその4%でしかありません。
当コラムは何度も申し上げているとおり医療は専門外ですが、あえて申し上げると、医療のひっ迫は医師会をはじめとする医療関係者の怠慢の結果です。
何故そう断言できるかといえば、明確な証拠があります。小池知事が各医療機関にコロナ専用病床の確保の要請を出し、これに応じない医療機関の名前を公表すると述べ、さらには応じないのなら補助金を返せと脅したらたちどころに病床数が増えたことです。
医療関係者は一般国民に先立って優先的にワクチン接種を受けています。何故かと言えば、彼らに頑張ってもらわなければならないからです。
しかし頑張っているのは感染症患者受け入れ可能病床の4%の病床で戦っている最前線の医療関係者であり、医師会長たちは国民には自粛を求めつつ、自分たちは政治家を囲んでパーティなどを開いているのです。しかもエビデンスなしに感染拡大のきっかけはGoToトラベル事業であったことは間違いないと断定し、同事業を中止に追い込みました。しかし実際の数字はGoToトラベル事業の参加者拡大とともに陽性判定者数は減少を続けていきましたし、国立感染症研究所の研究においても因果関係はなかったという結論が出されています。医師会は国民の犠牲において自分たちの権益を守ろうとしています。昨年度、1.5兆円の医療関係補助金と10兆円の予備費がほとんど手つかずに流されたのは、彼らが医療態勢の拡充を望まないからです。一部のやる気のある医療機関がここで態勢を強化してしまうと、やる気のない医師たちにとって迷惑なのです。
この構図は有機農業を推進しようとすると農協から迫害される構図に似ています。化学肥料や農薬の一括購入に応じない農家は迷惑でしかないのでしょう。
まして、補助金を受け取っておきながら受け入れを断っている医療機関などは補助金詐欺そのものです。
以上が、第5波において何が起きたのか、データが物語る真実です。
凛として
当コラムは新型コロナウイルスは怖くないと主張するものではありません。基礎疾患のある方の命は情け容赦なく奪われます。しかし、それは毎年襲ってくる従来の4種類のコロナウイルスも同様ですし、インフルエンザなどは基礎疾患のない小学生の命も奪います。正しく怖れるべきと主張しているに過ぎません。
依然として新規陽性判定者数はピークを過ぎたとは言え高い水準です。分別のない行動を取ってこの程度のウイルスに命を奪われるなどと言うことがあってはなりません。命を懸けてやらねばならぬことは他にたくさんあります。
視聴率稼ぎのテレビごときに煽られるのではなく、毅然とした対応が必要です。
いまこそ、凛として臨むときです。