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専門コラム「指揮官の決断」

第424回 

陰謀説を主張する人々

カテゴリ:危機管理

弊社コラムがYouTubeチャンネルに引用されました

弊社ウェブサイトに掲載のコラムの要約がYouTubeに引用されました。

ワタナベケンタロウさんという方がご自分のYouTubeチャンネルで、日航123便の御巣鷹山への墜落事故について真相を追及されており、そのために弊社がこの夏に4か月にわたり連載したものを要約してYouTubeの動画として発表されたものです。

https://www.youtube.com/watch?v=jWhgjBfH0tA )

事前にご本人からその旨の許可を求められて、真相解明に役立つのであればということで了解したものなのですが、掲載されたのが昨年の12月28日であり、その日のうちに1万回を超える再生が行われ、多くのコメントが寄せられているのに驚いています。

SNSが世論形成に与える影響

筆者が関心を持ったのは、そのコメントを寄せた人々のものの見方です。

SNS上で様々な発言をする人たちがどういう人たちなのかということには、これまでも若干関心を持ってきましたが、兵庫県知事選で斎藤知事が再選され、そこにSNSが大きな影響力を持ったとして、従来からのマスメディアがいろいろな見解を述べ、SNSと自分たちの違いについて言い訳がましい論陣を張ったことについては、当コラムでも取り上げました。(専門コラム「指揮官の決断」 第414回  議論のすり替え https://aegis-cms.co.jp/3426 )

その頃から、弊社でもSNSの持つ影響力について考えることが多くなり、この度のワタナベケンタロウ氏のYouTube動画に関して、自分たちでアップしたコラムが題材となった動画ということもあり、どのようなコメントが寄せられるのかを社会学的な観点から興味をもっていました。SNSがこの国の世論に与える影響が無視できないとすれば、その影響力の本質を知らなければならないからです。

結果は、ほぼ、事前に予想した通りのものでした。

今回は、そのSNSの影響力について考えます。

まずは、ワタナベケンタロウ氏がアップした動画について、簡単に紹介し、そこに寄せられたコメントの典型例をいくつか紹介します。

YouTubeの要約

ワタナベさんが引用した弊社のコラムというのは、弊社ウェブサイトに掲載中の「指揮官の決断」に昨年の夏に4回にわたり掲載したもので、森永卓郎さんなどが主張される、123便は海上自衛隊の護衛艦が誤射し、それを隠蔽するために米軍のヘリが現場に行ったのに引き返させ、自衛隊の特殊部隊が火炎放射器で証拠隠滅のため生存者を焼き殺したという途方もない陰謀説に対して、筆者が経験したことや専門的に学んできたことから疑問を呈したものです。

詳しくは弊社コラムをご覧ください。

(専門コラム「指揮官の決断」 第402回 日本航空123便墜落事故の謎  その1

https://aegis-cms.co.jp/3349 から4回連続)

この連続4回のコラムで、弊社は、論点を絞り、航空工学に関する事項についてはコメントしない、コメントするのは、筆者が直接体験して知っていること、筆者の自衛隊時代の勤務で常識的に知っていたこと、筆者が専門的に学んできた社会学的な知識から推測されることについてのみであることを第1回で宣言しておりました。

弊社コラムを読んでいただければ分かりますが、筆者は事故当日、たまたま三宅島近海におり、日航機がどこにいるのか分からないという状況から、航空救難の準備に入っており、少なからずこの事故に関係していたことから関心をもっていたということも述べております。

そのうえで、元日航パーサーの青山透子さんが海上自衛隊が相模湾で日航機をミサイル(青山氏は赤い練習用ミサイルと言っています。これは訓練支援から発射する射撃訓練に使用する標的機のことを指しています。)で撃ち、直ちに航空自衛隊の戦闘機が飛んできて、日航機と一緒に飛び、その状況を多くの小学生などが目撃しており、最終的に御巣鷹山に墜落し、その現場を米空軍機が発見し、米海兵隊のヘリが救助に来たものの、事実を隠蔽しようする政府の要請により引き返し、墜落した日航機には陸上自衛隊の特殊部隊が出動して火炎放射器で証拠隠滅のため生存者を焼き殺したという説を主張され、その書物を森永卓郎氏が、東大大学院まで行って研究して方法論的にも見事な書物と絶賛されいることを、4回の連載で批判しています。

具体的には、多くの小学生の目撃証言というのは、記憶が書き和えられた可能性もあり、多くの小学生が証言しているから事実であると認定するのはいかがなものかということです。

また、米空軍機の発見に関しては、そのことを後年にカリフォルニアのローカル紙に投稿した人物に関し、そもそも信じていいかどうか分からない人物である可能性があること、記事についてStars&Stripes紙が米第5空軍に確認しようしたらファクトチェックができなかったこと、当時、近傍の米海兵隊に航空救難が可能な部隊はなかったこと、陸上自衛隊も火炎放射器は武器としてではなく施設機材としてか扱っておらず、訓練もほとんどしたことが無かったことなどを指摘し、最後に、そもそも相模湾にいた「まつゆき」という船は、当時まだ就役前の石川島播磨重工業の船であり、船長もIHIの職員で、造船所や下請け企業の社員がたくさん乗っていたのに、どうやって日航機を撃つなんてことができるんだという疑問を呈し、さらには、青山氏の書物も、自衛隊に取材もしておらず、文章もとても博士論文を書いたことがある人の文章とは思えない妄想の積み重ねでしかなく、学問的方法論とはまったく無縁であることを指摘しました。

その弊社のコラムを引用されたこのワタナベさんの動画には多くのコメントが寄せられているのですが、その中で典型的なもの5つ程度をここにご紹介します。

SNS上のコメント

コメント1

「記憶の書き換えなどという説を用いて、日航機を追う自衛隊機が多数の小学生によって目撃されているという事実を否定することは、乱暴でかなりの無理があると思います。(中略) 始めに否定ありきで、無理やりそこに持っていこうとしているように強く感じます。(誤字は原文のまま)」

 

コメント2

「元自衛隊の証言が一番信じられないと思うけどね! だって真実を公表したら本人、家族が危ないですよね? ワタナベさんも現場に行ってそこで何があったのか?何が埋めらているのか?調べてみたら如何ですか? 自分は動かないで、人ずたいの話でお金儲けしてると思われない事を心配します。(原文のまま)」

コメント3

「確かに根拠づいて反証されています。確実な論理だと思います。しかし、複数の小学生達の目撃記憶がそんなに簡単に類似的に書き換わるでしょうか?しかも肉眼と音声による衝撃的な映像であったと思います。この点の記憶の書き換え反証に疑問を感じます。また、青山さんの火炎放射器論は現場で採取した成分を科学的に分析したのではなかったのでしょうか?たとえ火炎放射器以外だったとしても何らかの不自然な成分が検出されたはずです。これは社会科学ではありません。なので、少し?を感じずにはおれません。」

コメント4

「林さんの手記について疑問があります。

当時、『まつゆき』は石川島播磨重工業の所有物すなわち民間籍だった、

そして、かなり離れた位置にいたと思いますが、

何故その存在と居場所を林さんは知っていたのでしょうか?」

コメント5

「林さんが、アントヌッチ証言の所で退役しても守秘義務があるって言ってたけど、林さんご本人は守秘義務を守らずこうやって内部情報を表に出してますよね。これは守秘義務違反ではないのですか?それとも、自衛隊の守秘義務のルールが違ってたりするんですかね?」

陰謀説を信じる人たちの認識とはこの程度なのでしょう。

1は、筆者の文章を読む能力がないのでしょう。筆者がマクマーティン事件を紹介している項を読んでいないのかと思われます。この事件では360人の幼稚園児の記憶が書き換えられています。小学生の証言を否定しているのではなく、多くの小学生が証言しており、小学生がそんなことで嘘をつくはずはないから正しいとしている森永氏の議論を批判しているだけです。

2の人々とは話ができません。映画の観過ぎなのかどうか分かりませんが、そのような妄想を持つ人と議論する気にもなりませんし、議論する共通の言葉を持っていません。そもそもそんな危険があるのであれば、40年も経った事件について、わざわざコラムを出す理由がどこにあるのでしょうか。自衛官が123便について、陰謀論を支持したりすると、国家権力により家族の命が危なくなると思っている連中です。テレビや映画の観過ぎで、現実の世界を直視することができなくなっているのかもしれません。こういう主張をする人々と議論をするのはただの時間の無駄です。

3については、ある程度論理的に考える頭を持った方の議論かもしれないのですが、残念ながら、化学の常識が少し欠如しているかもしれません。

森永卓郎さんの説は、御巣鷹山の現場ではガソリンとタールを混ぜたような匂いが立ち込めており、一般の航空機事故の現場とは異なる匂いであったということを論拠にしています。火炎放射器の燃料がガソリンとタールを混ぜたジェル状の混合液であり、航空機の積む燃料と異なるので、海上自衛隊が誤射して撃ち落としてしまった日航機の証拠を隠滅するために陸自の特殊部隊が火炎放射器で焼き払い、生存者も焼き殺した可能性が高いということなのです。そして、航空機の燃料からは検出されず、火炎放射器の燃料に含まれるベンゼン環が検出されているので、火炎放射器が使われたことは間違いないと力説しておられます。

しかし、ベンゼン環は火炎放射器の燃料にも含まれますが、航空機の機体や内装の材質にも多く含まれています。エポキシ樹脂は接着性と耐熱性に優れ、航空機の複合材料に広く用いられていますし、ポリウレタンやポリスチレンなどの樹脂系材料も機内には大量に用いられています。現場からベンゼン環が検出されても何の不思議もありません。

森永卓郎さんは火炎放射器の燃料に含まれるベンゼン環が現場で検出されていることをもって自衛隊の特殊部隊による証拠隠滅及び生存者の抹殺を主張されていますが、ベンゼン環などどこでも検出される物質であることをご存じないようです。

これらの陰謀説に立つ人々は、自衛隊の特殊部隊とかアメリカの海兵隊といえばなんでもできるという妄想をもっている人たちもいますが、厚木、横須賀、佐世保にいる海兵隊は基地警備が専門で、一般的な戦闘任務に出すにも再錬成訓練が必要であり、まして特殊作戦などは海兵隊の中でも特別な訓練を受けた者にしかできません。そんなことはちょっとした軍事の常識があれば簡単に理解できるのですが、このレベルの知的水準の人々には無理でしょうね。

4のコメントは、海上自衛隊の艦艇運用についてまったく知らないと仕方ないのですが、当時、横須賀地方隊に所属し、横須賀警備区の沿岸防備が任務であった護衛艦が相模湾にいる海上自衛隊艦艇の情報を持っているのは当然であり、年度末には就役予定であった「まつゆき」が相模湾で公試を行っていることなどは当然に情報として持っていました。

出航前には、警備区の海域に関するできうる限りの情報を集めますので、海上保安庁の船舶の予定なども可能な限り把握していましたし、ヨットレースが行われるなどの時には、海上保安庁に届け出が行われ、その情報は海上自衛隊にも通知されていました。

就役予定の船が公試を行うなどという情報は当然に得ていました。

また、5のコメントも公務員の業務に関してまったく知らない方のコメントでしょう。筆者は秘密にしなければならな事実について何も触れていません。一方の空軍中尉は、口外してはならないと命令されたとして、それをローカル紙に投稿しているのですから秘密漏洩の疑いが残ります。つまり、このコメントを行った方は、公務員が守らなければならない秘密というものがどういうものなのかまったくご存じないということです。

守秘義務というものがどういうものなのかの認識がこの方にはないのでしょう。

これら以外にも多くのコメントが寄せられていますが、正直なところ読むに堪えないコメントが多数です。

一方で、弊社コラムの主張をよく噛み砕いて読まれている方のコメントも多く、また、当時相模湾にいた「まつゆき」という船が海上自衛隊の護衛艦ではなく、石川島播磨重工が海上自衛隊に納入の準備をしている段階の民間の船だったという事実を初めて知って驚かれた方もいらっしゃるようです。

今回は、ワタナベケンタロウさんが弊社コラムを引用されたYouTube動画に寄せられたコメントをいくつか紹介しました。

本稿の目的は、SNSがどうやって世論を形成するのかということを社会学的に探求しようということですので、次回は、それらコメントを寄せてくる人々についての社会学的分析を行います。