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専門コラム「指揮官の決断」

第208回 

全周警戒を

カテゴリ:危機管理

「左警戒、右見張り」

当コラムでは以前に「左警戒、右見張り」という言葉をご紹介しました。

専門コラム「指揮官の決断」第52回 No.052 左警戒、右見張り https://aegis-cms.co.jp/693 

これは一方向のみに注目するのではなく、常に全周の警戒を怠ってはならないという教えで、海上自衛隊では艦橋で当直に就く若年幹部には徹底的に指導されています。若い幹部は航海指揮官補佐として見張指揮をしなければならないのですが、戦闘配置で左の見張りが「閃光視認!」などと報告の声を上げると、艦橋内の双眼鏡が一斉に左を向いてしまいます。そのような時にあえて航海指揮官補佐は右の見張りに異常の有無を確認するよう指示をしたりしなければならないのです。

それはひょっとすると襲来する敵の陽動かもしれないからです。

このことは私たちの日常生活においても極めて重要で、高速道路では事故現場で立て続けに事故が起きることがありますが、事故の様子を見ながら運転していて前の車に衝突するケースが多いようです。私も高速道路等で事故現場を通りがかる時には後ろの車の動きに注意するようにしています。

さて、世の中はコロナに気を取られていますが、この間にも東海・東南海・南海トラフにおける断層の圧力は高くなっていますし、富士山のマグマは溜まり続けています。首都直下型地震や千島海溝周辺の海溝型地震もそのパワーを一方的に蓄え続けています。

当コラムでも何回か指摘していますが、これらの自然災害が生起する確率は100%です。プレートが動いている限り重なり合っている部分に圧力が溜まり、それがいつか弾けるのは確実ですし、マグマが溜まっている限りいずれ吹き出します。

問題は、それがいつで、どの程度の規模かということに過ぎません。また、それはコロナ騒ぎとは何の因果関係もないので、同時に起きても何の不思議もありません。

つまり、それらの大規模自然災害が明日起きても不思議ではなく、またそれらが連動し、あるいは同時に発生してもおかしなことではありません。

つまり、コロナで大騒ぎの日本列島ですが、しかし、台風だけではなく地震への警戒も緩めてはならないのです。

警戒をするということは「怖れる」ということではありません。「覚悟を持つ」ということです。

そのために必要なのが情報です。

この国の現状は?

このコラムでは、コロナ騒ぎの当初からこの問題を日本のメディアがどう扱い、社会がそれにどう反応するのかを観察してきました。

社会の反応は弊社の予想を裏切りました。

強制力を伴わない自粛要請が出ただけであるにもかかわらず、社会はそれに見事に反応し、街は閑古鳥も飛ぶ気力を失うほど人が絶えてしまいました。横浜などは当初からクルーズ船の入港による風評被害で、中華街にいたってはキョンシーが2~3匹歩き回っている程度というありさまでした。

緊急事態宣言では首相から国民に対して接触を70%、できれば80%削減して欲しいという要望が伝えられると、その意味をテレビが理解せず、人出が70%減ったとか80%に達していないなどと報道を始めたため、本当に繁華街に人がいなくなるという事態が生じました。

この計算は分子の衝突理論を持ち出さなければなりませんが、接触を80%削減するためには60%強の人出を抑制すれば済むはずなのはすでに指摘しています。(専門コラム「指揮官の決断」 第195回 何故私たちは正しい情報を得られないのか https://aegis-cms.co.jp/2081 )

簡単に説明すれば、人が二人しかいない社会では50%の人が外出を止めれば、接触は50%削減されるのではなく100%無くなってしまうという計算です。

いろいろな人々がネット上で様々なエンターティメントを披露したり、自粛生活を快適にするティップスを提供したりして、励まし合って事態の終息に向けた努力を続けました。その結果、G7の国々の中では奇跡的な被害の少なさに抑え込むことができました。

一方のテレビは予想通りでした。視聴率稼ぎに奔走する醜さを露呈し、むやみなPCR検査の拡充を訴えて医療崩壊を生じさせかねないところへ追い込み、「コロナ怖いウイルス」をまき散らしてこの国の経済を崩壊させようとしました。(専門コラム「指揮官の決断」 第184回 論理性の問題:PCR検査を無駄に行ってはならない理由 https://aegis-cms.co.jp/1947 )

観察するところ、テレビ以外のメディアは比較的冷静で、特にネットの世界では役に立つ情報も様々に見受けられました。

さて、これらの経験を踏まえると、左警戒・右見張りにおいて重要なのはメディアの情報を如何に選択して活かすかということです。

メディアの本質を見極めよう

まず、基本的なメディア・リテラシーを持つことが重要です。メディアというものがどういう性質を持つのかを理解していれば、メディアのもたらす情報の性質も分かります。視聴率を気にしなければならないテレビはとにかく煽らなければならないという宿命を背負っています。

社会心理学の教えるところによれば、人は不安を煽られると、その情報に関心を持ちます。つまり不安を煽る情報を与えることにより視聴率を稼ぐことができるのです。そして、その不安を解消するために、その不安が自分に起因するものではなく、誰かの責任にしなければなりません。そのため、それを政府の無策だと批判するメディアに心地良さを覚えます。

これがテレビの狙うところです。

つまり、テレビは不安を煽り、その責任は政府にあると批判することで視聴者にチャンネルを変えさせないように必死なのです。

そのためには事実を曲げてでもそのような番組作りをします。当コラムではテレビ朝日がヨーロッパから帰国した医師のコメントを歪曲して反対の論陣を支持する内容に作り変えて報道した事実に触れたことがありますが、それらはテレビ局の常套手段です。(専門コラム「指揮官の決断」第192回 言論という名の暴力 https://aegis-cms.co.jp/2007 )

生放送で専門家にコメントを求めて、テレビ局の意に反するコメントをされると大変なことになりますから、生放送でコメントする専門家は慎重に選ばれます。テレビに登場する専門家と称する人々がある特定の少数の人々に限られているのはそのためです。彼らは安全牌なのです。

彼らはテレビ局の意向に沿うコメントをしなければなりません。そこで本当の専門家はテレビには出演できないということになります。したがってほぼレギュラーで出演している専門家と称する人々は本当の意味の専門家とは言い難い人々です。

今回有名になった某女性教授などはその最たるものでしょう。彼女は当初、死亡者数がある週で10名、次の週に20名、さらにその次の週に30人になった事態を「指数関数的に増加している。」とコメントしました。死んだ人は生き返らないので総数が増え続けるのは仕方ありません。しかし私たちが見れば毎週の死亡者数は10名ずつの横ばいなのですが、彼女には指数関数的に増えているように見えるらしいのです。

そのためだと思われますが、この女性教授は緊急事態宣言が出された時に「今のニューヨークは来週の東京です。」とコメントしています。この予想は見事に外れました。

また、ウイルスが弱毒化しているのではという質問に対して、弱毒化するのは何十年も何百年もかかるのが普通ですとコメントされ、さすがの私たちも呆気にとられました。ウイルスなど数週間の単位で変異していき、かつ、強毒化するウイルスというのが歴史上ほとんど観察されていないことを考えると彼女は何を専門としている専門家なのか分からなくなります。

専門家でも予測を誤ることはもちろんあります。これまで経験したことのない事態であればなおさらです。しかし、専門家であれば自分は何を根拠にしてそう述べたのか、そしてその予測が何故外れたのかを明らかにしなければなりません。彼女のその専門家としての説明を聞いたことはありません。

つまり、テレビに出てくる専門家と称する人々のコメントなどを鵜呑みにすると事態の理解を誤ることになりかねないということです。

全周警戒を!

それではどうすれば正しい情報を得ることができるのかということです。

この問題はかなり大きなテーマなので次回詳しくお伝えすることにしますが、とにかく今重要なのは、コロナにだけ目を奪われるのではなく、その他の自然災害にも、また尖閣諸島をめぐる情勢や、米中関係、ちょっとおとなしくしている北朝鮮、政権末期のあがきを続けている様子の韓国など、私たちの周囲には危機の火種に事欠きませんので、それらに万遍なく注意を払い、決して一つの状況に気を取られないことです。

「左警戒・右見張り」です。