専門コラム「指揮官の決断」
第248回ワクチン接種をめぐるネット上のデマについて
巷ではワクチン接種に関するデマが溢れかえっているようです。曰く「不妊になる。」「接種すると遺伝子が書き換えられる」などに始まり、政府が生体情報を採取するために行っている。」などという陰謀説まで登場しているようです。
この類のデマは社会不安が大きくなる事態が発生すると必ずと言っていいほどネット上を賑わせますが、笑って済ませることができないのは、それらのデマが大きな社会的な危機を新たに惹起させることがあるからです。古くは関東大震災において「朝鮮人が暴動を起こしている。」というデマが飛んで虐殺事件が起きたことさえあります。
危機管理の専門コラムとしてこの問題は放ってはおけず、筆者もこの問題と長い間取り組んできておりますので、今後、少しずつこの話題にも触れて参ります。
ネット上のデマに関する報道の違和感
ただ、このところテレビなどでこの問題が取り上げられると非常な違和感を感ずることが少なくありません。
違和感の一つは、テレビでのこの問題についてコメントしている研究者です。社会心理学の専門家などはそれなりのコメントをしているのですが、最近観た番組でコメントを求められたある大学の理学部の教授は「理論的には不妊になる可能性、遺伝子が書き換えられる可能性はゼロではないので、これらの噂を一概には否定できない。」と述べていました。彼がどの程度のレベルの論文を書いているのか承知していませんが、この論理をそのまま適応すると、「警察官がある時突然発狂して拳銃を乱射することはありうることなので、警察官に銃を携帯させることには問題がある。」「自衛隊がクーデターを起こす可能性は理論的にゼロではないので、自衛隊に武装させるのは危険。」という議論が当然のように行われることになります。
この論理を放置できないのはテレビや新聞がよく使う論理だからです。彼らは例えば原発の安全性について「100%安全だと保証できるんですか?危険性は0%と保証できますか?」などという問いをしつこく浴びせかけた挙句、「全くゼロとは言えないが・・・」という言葉を引き出したとたんに「これは危険だ」という報道にするのです。
どの口が言ってるんだ?
もう一つの違和感は、その問題を報じているのがテレビだということです。
そもそもテレビがPCR検査の陽性判定者を「感染者」と報じるという大ウソを延々とつき続けているから社会全体が不安におののき、その結果出す必要もない緊急事態宣言などが乱発され、飲食や旅行関連業界を徹底的に痛めつけ、社会的免疫の獲得を大幅に遅らせている張本人なのに、ネット上のたわいもないデマを問題にできるのかということです。
ネット上のデマは名も無い個人が垂れ流しています。ところがテレビでは社会的影響力を無視できない人たちを登場させるからもっと始末が悪いのです。その問題については当コラムでも何回か取り上げていますが、このコロナ禍の原因は新型コロナウイルスではなくテレビが垂れ流す「コロナ怖いウイルス」だと言っても過言ではないと考えています。
街を走る自動車を見ていると、一人しか乗っていない自家用車をマスクをして運転している人を多く見かけます。こうなるともう「コロナ怖いウイルス」病です。
専門家という人々の実態
当コラムは危機管理の専門コラムであると宣言をしており、組織論をベースとしてクライシスマネジメントに関連する話題を取り上げて掲載いたしております。
この建前上、方法論については若干気にかけており、学術論文ではないので厳密な学問的方法論を踏襲しているわけではありませんが、しかし専門コラムとして外してはならないと考えている一定のルールには従っているつもりです。
その中で最も気にかけているのは根拠を確認するということです。
私はコンサルタントですので、多くの経営コンサルタントの知合いがいます。また、かつて日本経営士会の経営士でもあったので、多くの経営士を知っています。
それらの知人の中でドラッカーについて言及するコンサルタントは決して少なくありません。
ドラッカーについてのセミナーを開催されていた先輩経営士のセミナーを拝聴したことも何回かあります。
ドラッカーと言えば「イノベーション」という前提で話をされる講師が圧倒的多数なのですが、私はいつも違和感をもって聴いていました。
私は様々な講師に「ドラッカーがイノベーションが最も重要だと述べている本はどれなんですか?」という質問をしてきましたが、この質問に対する明快な答えはいまだに頂いていません。たいていの講師は口ごもります。『イノベーションと起業家精神』をあげる講師はまだましな方です。
私は彼らを試しているのではありません。私自身が知らないので教えてほしいと思っているのです。ドラッカーにとってイノベーションの重要性は公理であり、あえてそれを重要なものだと述べた本を知らないからです。
むしろドラッカーは経営トップの持たねばならない誠実さなどの重要性については様々なところで語っています。私の認識では企業家にとってのイノベーションの重要性を説いたのはシュンペーターであって、ドラッカーはすでにそんなものは前提として扱っているのではないかと考えているのですが、確かなことが分からないのでいろいろ訊いているのです。しかし、満足に答えが頂けない所を見ると、コンサルタントの皆さんご存じないのではないでしょうか。
ドラッカーを語る多くのコンサルタントで、ドラッカーの膨大な著作を本当に読み込んでいる方がどれほどいるのか私は正直なところ疑っています。
実は私は学部のゼミでピーター・ドラッカーの『マネジメント』とチェスター・バーナードの『経営者の役割』は徹底的に読んでいます。大学院の研究室に進んでからも、ゼミの後輩たちを指導する必要上、その2冊はいつも読んでいました。したがって、この2冊に関しては読んでいない人の議論はすぐに分かります。
ドラッカーについてはいろいろなところで語られていますし、さまざまに引用もされています。それらの情報だけでも分かったような気にならないこともありません。Youtubeでドラッカーを語っている方も何人かいらっしゃるようですが、ある解説本で間違った解説がされていて、研究者の間では有名な間違いなのですが、その方はそれをご存じないようでそのまま解説されています。
多分、世間のドラッカー解説者の多くがその程度かもしれません。
ランチェスターに言及されるコンサルタントも多数いらっしゃいます。弱者が強者にいかにして勝つかという日本人好みの話題として取り上げられることが多いランチェスターですが、これも同様です。
実はランチェスターの法則、ランチェスター経営、ランチェスター戦略などいろいろな言い方をされ、それぞれに意味するところが違うのですが、その違いも知らずに解説しているコンサルタントがいるのにはびっくりです。
それらの違いをしっかりと理解して講義をするセミナー講師もおられますが、しかし、私はランチェスター自身が書いた論文を読んだことのあるコンサルタントにお目にかかったことがありません。
私自身は海上自衛隊に在職中、一等海佐の時に入校していた幹部学校高級課程で論文を書くための資料を探して統合幕僚学校の図書館をうろついていた時にそのコピーを見つけ、純粋に軍事論文として読んだ記憶があります。これは第1次大戦直前に書かれた論文で、近代戦における空軍力の重要性を説いたものであり、それを定性的ではなく、定量的に証明したもので、オペレーションズリサーチとして発展する基礎となったものです。
感染症の専門家という人たちは?
このように、専門家として登壇している方々であっても、原典を確認していない人はたくさんいます。
当コラムでは、共同通信が配信した記事で、東京大学の研究者チームがエール大学の健康科学に関する論文を掲載するサイトにアップした論文で、GoToトラベルに参加した人がしなかった人よりも2倍のコロナ感染率となっていることが統計学的に証明されたという内容を統計学的な証明はされていないと批判しています。(専門コラム「指揮官の決断」第226回 危機管理における事実の理解の仕方 https://aegis-cms.co.jp/2264 )
執筆者たち自身が統計学的な証明をしていないことを知っているのでそう書いていないのにもかかわらず、共同通信の記者が英語が読めないのか統計学の入門的知識も持ち合わせないのかのどちらかで誤報をしているのですが、多くの感染症の専門家がその記事を引用してテレビでコメントしていました。つまり、感染症の専門家たちも自分で論文を読まず、新聞記事を鵜呑みにしているのです。
致死率の計算すらできない
昨年の今ころ、新型コロナの致死率が3%程度と言われていたことがあります。コロナで一躍有名になった某大学の女性教授がそう言っているのを聞いただけで、彼女の計算かどうかは知りませんが、私はそのころからその致死率を疑っていました。
致死率が3%という高い率なのに、死亡者数が少ないのです。コロナ死と認定される死亡者数は、死亡時にコロナウイルスが検出されればすべてコロナ死なのですが、その数字を見ても少ないし、まして、病院でコロナが直接の原因で亡くなった人の数を見れば、とても3%などという数字であるはずはないと考えていたからです。
結局昨年の2020年は2019年よりも一年間の死亡者数が1万人少なくなりました。致死率3%の疫病が流行して数十万人が感染しているのに死亡者が減るなどということはありえないはずです。
ある時、この3%という数字を出したロジック自体が誤っていることに気付きました。あまりにも初歩的な中学生でも分かるような間違いなので、まさかその程度の間違いをしているなどと疑ってみたことすらないような過ちでした。それも当コラムでは指摘しています。(専門コラム「指揮官の決断」第240回 王様はハダカだと言う勇気 https://aegis-cms.co.jp/2368 )
私たちがテレビなどで見ている専門家たちというのはその程度であることが珍しくありません。
原典を読まない研究者たち
一昨年ですが、ある大学の経済学部の教授と話をしていたら(我が母校の名誉のために申し添えると、その教授は私の母校の教授ではありません。)、なんとケインズの一般理論を読んだことがないのだそうです。若い教授なので、ケインズは経済学史で学ぶものだと思っているようなのでびっくりでした。
様々なメディアのおかげで情報が簡単に手に入る時代になっていることは間違いなく、いちいち原典に当たらずとも内容については把握できるのかもしれませんので『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』でドラッカーを語っているコンサルタントだっているかもしれません。そのレベルのコンサルタントをちらほら散見します。
とにかくメディアに登場する専門家のレベルが低すぎるのです。
このコラムが専門とする危機管理にしても、リスクマネジメントを危機管理だと思い込んで安全保障問題を語っている評論家は無数にいます。
プロは舐めてはいけないはずだが・・・
私は学生時代からのヨット乗りですから気象には大きな関心を持ってきました。気象予報士の試験を受けてみようかと思ったこともあります。そのため、テレビの天気予報を観ても、予報士の予報に納得のいかないことが時々あります。しかし、気象予報士たちは教科書に書いてある理論だけではなく、豊富に事例を知っていますし、私たちが触れることのないデータソースを持っています。彼らが私が理屈の上で考える予報と異なる予報を出す時にはそれらの経験やデータでものを言っているはずで、彼らの予報の方が正確なことが多いようです。したがって私は常々、「プロを舐めるな、専門家を侮るな」と言っています。
特に感染症の専門家たちは・・・
しかし、昨年からのコロナ騒動を観てきた経験から申し上げると、「テレビに登場する感染症の専門家というのは選りすぐった馬鹿ばかり」というのが正直なところです。
私たちは統計学や数理社会学の観点からのみしかこの事態を見ることができないので、当初、やはり感染症の専門家は別の観点からこの事態を観察しているんだと考えていました。
しかし、事態が始まって以来1年半に渡り、多くの専門家の発言を聞いてきた結果、先に述べたような結論に達せざるを得なくなりました。
グラフの書き方すら知らない医療ガバナンスの専門家、致死率の計算すらまともにできない感染症の専門家、指数関数の意味を知らない大学教授、東京はニューヨークやミラノのようになるとわめき続ける東大名誉教授など数え上げればきりがありません。
(専門コラム「指揮官の決断」第203回 不都合な真実 その2 https://aegis-cms.co.jp/2132 )
彼らの誰一人、PCR検査の陽性判定者が増加することの何が悪いのか説明してくれません。増加に比例して死者が増加するのであればその限度を考えなければなりませんが、そうでない限りそれは社会的免疫を獲得しつつあるということ以外にないはずです。
その獲得が早ければワクチンなど打つ必要はないはずです。
にもかかわらず、単なるPCR検査陽性判定者を「感染者」と呼んで不安を煽るテレビの片棒を担いでいる専門家ばかりです。
つまり、この専門家たちは陽性判定者を「感染者」と呼んできたことにより自分自身が騙されてしまい、陽性判定者が増えることが社会にとって危険なことだと思い込んでしまったとしか思えません。
ネットのデマよりも始末が悪いもの
当コラムでは先に風評被害は誰が作るのかについて考え、中央大学の目加田説子教授を批判しました。(専門コラム「指揮官の決断」第244回 風評被害はどうやって生まれるか https://aegis-cms.co.jp/2396 )
この学者は政治学を専門としていながら所管省庁で6年間にわたる議論がなされた結論について、その経緯を全く知らずに「結論ありきの議論」と切って捨てただけでなく、このような議論を許せばデブリなども廃棄されかねないという素人の議論を展開しています。この学者のコメントはせっかく地元漁協などが苦渋の選択として受け入れている解決策を振り出しに戻すものであり、地元はこのコメントによってもたらされる風評被害にまた苦しむことになります。
ネットを賑わせるたわいもないデマよりも、社会的に影響力のある有名人の戯言や大学教員のような専門家のウソの方が遥かに始末が悪いのではないかと考えています。
この事態を目の当たりにして当コラムでも戒めていることがあります。
「専門外に手を出すな。」「方法論の基本を遵守せよ。」です。
信ずるな! 疑え!
当コラムは危機管理の専門コラムと謳っています。
皆さま、「専門」という言葉に騙されてはいけません。
俗に「専門バカ」という言葉がありますが、昨今、メディアを賑わせているのはその専門すらろく理解していない、只の「バカ」ばかりです。
当コラムもそのような意識を片隅に読んでいただくのがメディアリテラシーというものです。