専門コラム「指揮官の決断」
第391回メディアの本性
地に堕ちたジャーナリズム
当コラムでは、コロナ禍においてメディアの報道が出鱈目であることについて再三言及してきました。
視聴率や購読率を上げるために不安を煽る戦略を取った彼らは、不安を煽るのに都合のよい事実を切り取り、彼らの思い通りの見解を述べてくれる専門家と称するコメンテータを呼んでコメントをさせました。
感染症の専門家たちが致死率の計算すらまともにできていないことについては、当コラムで何度か触れています。(専門コラム「指揮官の決断」第301回 感染症専門家の計算する致死率 https://aegis-cms.co.jp/2734 )
また、コロナ禍の取材や報道に当たったのが社会部の記者たちが主力であったことも問題でした。元々芸能人のゴシップを扱う程度が身の丈の連中が、この世界中を巻き込んだ大惨事を担当したため、彼らの能力に余る問題を処理しきれず、とんでもない誤報を繰り返しました。
ある通信社が、日本の研究者グループが発表した論文で、当時政府が実施しようとしていたGoToトラベル事業とPCR検査の陽性判定者数との間の関係が統計学的に証明されたという記事を配信したところ、ほとんどすべての新聞やテレビがそのままコピー&ペーストをしたことも当コラムで何度か触れています。(専門コラム「指揮官の決断」第237回 虚実のはざま https://aegis-cms.co.jp/2347 )
弊社で確認したところ、その論文は米国のある大学の健康科学を扱う査読前の論文をアップしているサイトに掲載されていました。
弊社は医学は専門領域ではありませんが、統計の話なら読めるかもしれないと考えてダウンロードして読んでみたところ、統計学的証明などはまったくされておらず、執筆陣もそのことをよく承知しており、統計学的証明とは記述していないことが分かりました。このため、この論文は査読を通る可能性があります。もし統計学的証明だと書かれていれば、統計学を勉強し直してこいということで査読を通りませんが、そう書いてないので、それほどのデータを集めることができない段階で書かれたものだという評価がなされるからです。
ただ、この論文を見かけた某通信社の記者が、英語が読めなかったのか算数が分からなかったかのどちらか、あるいは両方の原因によりこの論文の真価を見誤り、科学的証明だと配信し、それを受けた日本のメディアがファクトチェックなどを全くせずにコピー&ペーストをしたのが実態です。ジャーナリズムは地に堕ちたというべきでしょう。
さらにこの記事を読んだ当時の日本医師会の会長が、GoToトラベルとPCR検査陽性判定者数(彼は医師であるにも関わらず、陽性判定者を感染者と呼ぶという基本的な過ちを犯しています。)との因果関係は明らかだとして、同事業を中止すべきと主張したこともあって、同事業は中断されてしまいました。事実は、GoToトラベル事業の進展とともに陽性判定者数は減少しはじめ、中止と共に再び増え始めてしまいました。
理由は簡単です。同事業のために、宿泊関連の事業者は必死で準備し、あらゆる対策を取り、そこへ家族や恋人同士という日常的に一緒にいる時間の長い人々が訪れたため、他の場所に行くよりも感染リスクが低かったのに、同事業が中止になった後もGoToEat事業は中止されなかったため、街に繰り出して飲んで騒ぐ連中が激増し、その結果陽性判定者が増えてしまったということです。
能力だけの問題ではない
これはコロナ禍の報道に当たった連中の能力の低さが原因でしたが、それだけが問題ではありません。彼らは不安を煽るために事実を捻じ曲げることさえ厭いませんでした。
コロナ病床のひっ迫という報道です。
私たちは、大きな病院のコロナ救急病棟で医療関係者が溢れかえる患者への対応で必死になっている様子を繰り返し見せられ、あるいは救急車に乗せられたコロナ患者が受け入れ先を探すのに何時間もかかって死亡してしまったというような報道を度々聞かせられました。
しかし、実態は一昨年の会計検査院の国会への報告で明らかになりました。コロナ禍の最も酷かった時点においても、コロナ専用病棟は6割しか使用されていなかったのです。
当コラムではコロナ専用病棟における連日のECMOと人工呼吸器の使用状況をフォローしていたので、そんなにひっ迫しているはずはないと主張しましたが、実際にもそうでした。
救急車で搬送される患者が受け入れ先を探すのに苦労していたのは事実でしょう。その理由も簡単です。
コロナ専用病棟を作ると、多額の補助金が支払われます。ところがコロナ患者は報道されるほど増えていたわけではないので、病床は空いたままのものが多数ありました。この場合も空床補償というのが支払われるので、その態勢を維持することは出来たはずなのですが、病院経営者は、コロナ専用病棟に配員した医師や看護師を通常の診療のシフトに入れてしまっていたのです。つまり、コロナ専用病棟にはベッドだけがあり、そのスタッフは通常の診療に戻っていたということです。
病院は空床補償を受け取りながら、通常の診療も行っていたので、コロナ病床への救急患者の受け入れはシフト上できず、受け入れを拒否せざるを得ませんでした。理由は「担当者が手一杯」だからです。
その結果、日赤病院や市民病院、徳洲会や済生会など真剣に対応した病院が火だるまになってしまい、テレビ局はその様子を取材して、「医療のひっ迫の現状」を作り出して繰り返し報道したのです。
そもそもが、PCR検査陽性判定者数を感染者数と呼ぶこと自体が恣意的であり、不安を煽ることにしかなりませんでした。
ウィルスへの感染というのは、体内にウィルスが入り込んで、寄生と増殖が始まった状態であり、PCR検査陽性判定というのは、検体からウィルスが発見されたというだけのことです。それがかけらであっても陽性と判定されるのがPCR検査です。
つまり、メディアの報道というのは、その程度のものでしかないということを理解して付き合うべきなのです。
思わぬところで発見したマスコミの体質
最近のことですが、母校上智大学のOB会のある部会で開催されたセミナーを聞きに行く機会がありました。講師の方が、9.11の時にニューヨークにいて、日本の新聞やテレビのニュースにすさまじい違和感があり、そこからマスメディアに対する不信感が大きくなったという話をされたので、それには全く同感ですね、というコメントを述べたりしていました。
ところがその会合にはマスコミ・ソフィア会というOB会のメンバーも多数参加されていて、セミナー後の懇親会で「私もマスコミ関係者です。」と嫌味を言いに来られる方が多数いらっしゃいました。
筆者のマスコミ嫌いは筋金入りですので、彼ら、彼女たちの「そんなに出鱈目でしたか?」という質問に、「自分たちがどれほど出鱈目だったか、気付きもせず、自分たちがどのように事実を捻じ曲げて報道したかも忘れ、また、それらを検証もしないのがあなた方ですからね。」と面と向かって返答する始末で、さすがに彼らも呆れていたようです。
ところが、筆者が元海上自衛官であるということが司会者から明かされると、彼らが本性を現しました。
「上智大学の出身で、自衛官というのは非常に珍しいですね。」と言うのです。
これがマスコミが「マスゴミ」と呼ばれる原因の一つです。
陸・空自衛隊の事情は承知していませんが、海上自衛隊には上智大学出身の幹部自衛官は決して少数ではありません。筆者が退官したのは2011年ですが、その年に同窓生は12人以上いたはずです。しかも半数は女性でした。つまり、上智大学出身の海上自衛隊幹部は別に珍しいわけではありません。
海上自衛隊には1万人弱の幹部自衛官がいますが、防衛大学校や一般大学を卒業して、幹部候補生として入隊した幹部自衛官はその半数以下です。他は一般隊員として入隊して部内で選抜されて幹部自衛官となった幹部自衛官なので、大学を出ていない者が多数います。
つまり、その数少ない大卒幹部自衛官の中で、圧倒的多数が防衛大学校出身者という状況の中にあって10名以上の卒業生がいるということは、それほど珍しくはないということです。
海上自衛隊にいるとさほど珍しいということでもないのですが、母校に帰ると希少生物扱いをされます。
もともと、自衛官や警察官になるのは、武闘派のイメージがある大学出身者が多く、ミッションスクールである上智大学からそのようなコースを選ぶ卒業生はほとんどいないはずというのが彼らの認識でしょう。
美人女子アナウンサーを多数輩出した上智大学というイメージもあるかもしれません。
つまり、マスコミソフィア会のメンバーたちも、それらの先入観だけで判断し、ファクトチェックなどまったくせずにモノを言っているということです。
そのようなことに常日頃から関心を持ってファクトチェックをしておくべきと申し上げているのではありません。
ただ、そのような先入観で「珍しいですね。」と発言することがメディア関係者として失格であると述べているに過ぎません。
自分が上智大学出身の幹部自衛官がどのくらい存在するのかを知らないのであれば、まず、「上智の卒業生は何人くらいいるのですか?」という質問が発せられるべきです。それをせずに自分の先入観で「珍しい。」と決めつけてしまうのが、彼らマスコミの体質です。
そして、その先入観に基いて番組作りをするのが彼らです。
筆者は、「上智大学卒業で自衛官と言うのは珍しいですね。」と筆者に向かって言ったマスコミソフィア会の方々には「だからあなた方の報道はダメなんです。先入観でモノを言って、事実確認を先にしようという発想が全くないでショ?」と言い放って終わらせてしまいました。